シリア難民問題から感じる「メディア」への違和感:世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップが来日した。フランス同時テロ後だったので、日本のメディアはこぞって取り上げたが、筆者の山田氏は一連の報道に違和感を覚えたという。なぜなら……。
難民問題に多大なる金銭的な貢献
グテーレス氏は今回の来日で、安倍晋三首相を表敬訪問している。15分という短い面談だったが、安倍首相は、UNHCRへの政府の拠出金のうち3億円を欧州に向かう難民の防寒対策として配分することを伝えている。難民が苦境の中で冬を越せるようにという判断だ。グテーレス氏はその言葉を受けて謝意を述べ、難民に対する人道支援への協力を再確認した。
このやり取りを聞くだけで、グテーレス氏に対する見方は少し変わる。ほとんどの報道からは彼が日本政府に一方的な要求をしたと取れるが、日本に謝意を述べたことはどこにも書かれていない。もっと言えば、安倍首相を訪問したことすら書かれていない。国民の税金をどう使っているのかに関わる話なので、新聞は一言触れてもいい気がする。
実は記者会見でも、グテーレス氏は日本を評価するコメントをしている。米国のAP通信社による配信記事は、「UNHCRのトップ(グテーレス氏)は、全体として日本の援助を賞賛した」と報じている。さらに日本を拠点とするNGOなどが「非常に危険な地域」にも赴いて勇気ある支援を行なっているとも語り、そうした民間の取り組みも評価している。
会見の翌日、このUNHCRトップは日本のNGO関係者らと昼食会を行っている。外務省によれば、グテーレス氏は「日本の緊急人道支援に対する貢献に敬意」を示した(参照リンク)。その上で「UNHCRと日本のNGOとは難民支援の現場で連携しており、より緊密な連携に向け、引き続き意見交換していきたい」とし、「国際貢献に当たっては『日本の顔が見える』ことが重要で、そのためにも市民社会や日本NGOとの連携を促進していきたい」と、難民受け入れとは別の支援での連携の重要性も語っている。
またグテーレス氏は会見で、日本の事情にも理解を示している。「日本に来る難民の数が乏しい背景には、日本が、難民危機の最前線から地理的に果てしなく遠いということもある」と話し、その文脈の流れから、日本の状況は分かっているが、できることなら難民の受け入れを考慮してほしい、という趣旨の主張をしているのである。もちろん、これらのコメントは日本の新聞などでは一切報じられていないと言っていい。
日本ではあまり触れられることはないが、実のところ日本には、難民問題においてUNHCRから賞賛される理由がある。日本は世界的に見ても、難民問題に多大なる金銭的な貢献をしているからだ。もちろんカネがすべてではないがカネも大事重要な支援である(ちなみに欧州諸国はこれ以上シリアなどからの難民や生活向上を目指した移住希望者が欧州に制限なしに入ってくるのを食い止めるため、トルコに32億ドル(3939億円)を支払ってカネで水際対策を押し付けようとしている)。
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