シリア難民問題から感じる「メディア」への違和感:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップが来日した。フランス同時テロ後だったので、日本のメディアはこぞって取り上げたが、筆者の山田氏は一連の報道に違和感を覚えたという。なぜなら……。
日本が現時点でできる現実的な貢献
難民問題については、繰り返しになるが、もちろん金銭的貢献がすべてではない。内戦に苦しむ人たちは、金銭的援助だけでなく受け入れも求めているし、国際社会はきちんと審査をしてそれを受け入れるべく努力する必要があるだろう。日本も、「2014年に難民認定されたのは申請者5000人中で11人」では少なすぎる。
だが日本はまだ難民を受け入れる土壌が十分にできているとは言い難い。移民の多い欧米に比べ、難民が同化しにくい社会であるのは想像に難くない。1979年から日本が受け入れた1万1000人ほどのインドシナ難民(ベトナム、ラオス、カンボジアなどからの難民)も日本に馴染むのに大変な苦難があったのはよく知られている。
言葉や文化は大きな壁だ。また例えばイスラム教徒なら、食事はハラル(イスラム法で許可された食べ物)でなければならない。日本ではまだまだハラルを提供するスーパーやレストランは多くない。日本よりはるかに人種の多様化が進む欧米諸国と比べ、到底受け入れ体制ができていると思えない日本が現時点でできる現実的な貢献は、金銭的支援なのかもしれない。
2020年に東京でオリンピックが行われる。それを機にこうした整備も行われていくことが望ましい。そしてそういった動きが、世界が直面している難民問題に金銭的ではない貢献をするための第一歩になるかもしれない。そして自戒の念を込めつつ、メディアにもそういう建設的な議論を期待したいものである。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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