もし経営者がアリストテレスを読んだら?:小林正弥の「幸福とビジネス」(1/3 ページ)
ビジネスの世界でよく語られる「経営哲学」。これはいわゆる学問的な哲学と関係するのだろうか。この難問についてアリストテレスはどう考えるのだろうか?
哲学はビジネスに必要か?
哲学は経営に役立つだろうか? 哲学のような抽象的な学問は生ものである経営には役立たないと思う人もいるだろう。
でも、優れたリーダーには経営に哲学が必要だと考える人も少なくない。「経営哲学」がしばしば注目されるのはこのためだ。そのような人たちは自分の指針となる考え方をこのように表現する。それでは、ここでいう「哲学」は学問的な哲学と関係するのだろうか。
実はこれは難問だ。でも、アリストテレスならその哲学から経営哲学を導ける。優れた経営者がアリストテレスを深く読めば、それに基づいて企業を発展させることができるだろう。
例えば、どのようなリーダーシップやマネジメントが望ましいのか。米国型経営が影響を与えている中で日本企業はどのような方針を採るべきか。今回もこれらについてアリストテレス自らの答えを聞いてみよう。
賢慮と英知のリーダーシップ
ビジネスパーソンの諸君、新年明けたばかりだが、さっそく全力で仕事に打ち込んでいるようだのう。感心、感心。
さて、今回は学問の哲学と経営哲学の関係性について知りたいそうじゃな。我が哲学からいえば、何よりも経営者をはじめとするリーダーに極めて重要なのは賢慮の美徳じゃろう。これは、現実の問題に関して善を実現するための行為をしっかりと考える知恵である。目的は善いことを実現することであり、そのための方法を見出すためにこれが必要なのじゃ。
人間の最大の目的は幸福を実現することじゃ。それを実現するためには大小さまざまな規模の目標について時期を定めて設定し、そのための手段を考える必要がある。一度は成功した企業でも、その後しばしば惰性(だせい)で進んで失敗を招く危険がある。そのようなときには改めて会社という組織の目的を根本的に見つめ直すことが必要であるのじゃ。
一言で言えば、これは「目的から考える思考」である。聞くところによると、最近は経営理論でもリーダーが組織の目的やビジョンや使命を自覚する重要性が認識されて、ミッショナリー・リーダーシップとかビジョナリー・リーダーシップなどと言われているそうじゃな。
企業の本来の目的は、その活動を通じて顧客や社会のために役立つような善いことをすることである。例えば、日本航空(JAL)の再建に成功した稲盛和夫氏は新しい事業に乗り出す際に「動機善なりや、私心なかりしか」と自問するという。ここで目的や目標が善であることを確認するわけである。
そして、目標から逆算してどの時期にどこまでをどのように達成しなければならないかを理智的に考える。このためには、理論や原理を知った上で具体的な状況に併せて適用することが必要である。さらに上から俯瞰(ふかん)するような見方をして、全体の状況の中でどうすべきかを考えるのがいいじゃろう。経済の変化している方向性を見極めて、その中で自分の企業の進むべき道を戦略的に考えるのじゃ。
例えば、環境に優しい車が重視されるようになっているならば、それを早く開発していくことが大切じゃ。トヨタのプリウスはその成功例である。それとは逆に米国の排ガス規制をクリアできなかったから、フォルクスワーゲンは不正行為をしてしまったのであろう。
このような俯瞰的で理論的な見方が「観照」という最高の英知である。これが人間の最高の幸福につながる。優れたリーダーを志すのならこの理想に向けて進んでいくべきじゃろう。賢慮、さらには英知が理想的なリーダーシップを生み出すのである。
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