「高齢=幸福」ではなくなる――高齢化社会における“本当の”問題とは?:INSIGHT NOW!(1/2 ページ)
老いをネガティブに捉えている人にとっては意外かもしれないが、人は高齢になるにつれて幸福度が上がっていくという研究結果が出ている。「幸福感のパラドックス」と呼ばれるこの現象は、今後崩れていく可能性が高い。それはなぜなのか。
著者プロフィール
川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。
老いをネガティブに捉えている人は意外に思うだろうが、NPO法人「老いの工学研究所」による高齢者研究では、高齢期に幸福感が向上していくという結果が出ている。40才〜70才台の男女に「人生を振り返り、各年代の幸福度を100点満点で評価してください」という質問をしたところ、次のような結果となった。
実は、国内外の諸研究でも同じような結果が出ている。高齢者は健康を損なったり、身体的機能が衰えたりする。あるいは仕事を引退して収入が減ったり、活動範囲が狭まって刺激がなくなったり、家族や友人、知人との別れを経験したりする。普通に考えれば、幸福感は低下するはずなのに、実際には幸福感が徐々に向上していく。この現象は「幸福感のパラドックス」(または「加齢のパラドックス」)と呼ばれる。
このパラドックスについて、さまざまな研究者が試みた説明には、以下のようなものがある。
1.離脱(世俗から離れることによる幸福)
高齢者は社会活動から離脱し、活動範囲を縮小する。そのため人との比較から生じる「できない」という否定的感情を持つ機会が自然に減少する。これが、幸福感が維持される理由である。
2.活動(新たな取り組みによる幸福)
高齢者は、それぞれの環境に見合った新しい役割や居場所を見出し、自律的に社会活動を再開している。これが、幸福感を維持する理由である。
3.継続(強みの発揮による幸福)
高齢者は、自身の過去の経験や社会関係を、その後も継続的に活かすような活動を行っており、社会もそれを認めて受け入れる。そのため、幸福感を維持できる。
4.最適化(目標に対する態度による幸福)
高齢者は、肉体的・精神的衰えに従順になる傾向があり、柔軟に目標を変え、また目標の達成に執着しすぎることがない。集中するべき目標を適切に選び、仮にそれが達成できなくても、自己否定することなく、上手に自己を最適な状態に調整できる。現状に対する最適化によって幸福感を維持している。
5.発達(精神的成長による幸福)
高齢者の幸福感は「仕事や役割に執着せず、引退を受け入れる」「身体的健康に執着せず、衰えを受け入れる」「死に対しても、逃れられないものとしてそれを受け入れる」という精神的に高次の段階に至ることによって得られている。
6.老年的超越(精神的超越による幸福)
高齢者は、まず身体的・社会的に限界が生じることを自然に受容する。さらに、死にする恐怖心ではなく、生と死について新しい認識を持つ。利己主義から利他主義へ移行し、人間関係における深い意味を見出す。このような超越的次元に移行することで、幸福感を維持する。
高齢化社会は“問題”ではない
そもそも、高齢化社会とは現実に起こっている現象であって克服しなければならない“問題”ではない。高齢者がこのように年とともに幸福感を持ち得るならば、高齢化社会とは幸福な人の割合が増えることであって、何の問題もないはずだ。
世間一般で言われている高齢化社会に関する問題とは、あくまで社会的、経済的な側面にすぎない。「高齢者ばかり幸福なのは問題だ」という次世代の意見もあるだろうが、高齢者も昔は幸福感が低かったわけで、高齢期まで待てばよいだけの話である。
しかし、高齢期まで待っても幸福感が高まらなかったとしたら、それは“問題”だ。そして今、それが現実になろうとしている。
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