「高齢=幸福」ではなくなる――高齢化社会における“本当の”問題とは?:INSIGHT NOW!(2/2 ページ)
老いをネガティブに捉えている人にとっては意外かもしれないが、人は高齢になるにつれて幸福度が上がっていくという研究結果が出ている。「幸福感のパラドックス」と呼ばれるこの現象は、今後崩れていく可能性が高い。それはなぜなのか。
「高齢=幸福」ではなくなりつつある
まず、前述の「離脱理論」「活動理論」が示すのは、世俗から離れた隠居生活や、引退して自分の好きなことだけに取り組む姿勢が高齢者の幸福感を高めるということだが、それはこれまでと同水準の社会保障を前提としており、今後は現実的でない。
社会的要請で引退をせずに仕事を続ける人はこれから増えるはずだ。引退や隠居はできず、(現役時代と同じように)好きなことだけ取り組むわけにはいかないとなれば、高齢者の幸福感は向上しないだろう。
次に「継続性理論」が言うように、高齢になっても自らの“強み”を発揮し続けられればよいが、それも難しいと思われる。昔たくさんいた“腕に覚えのある職人”――自分の技で飯を食ってきたスペシャリストは減る一方だからだ。
組織の中でさまざまな分野の仕事に携わってきた結果、浅く広く何でもできるが、これといった強みを自覚できない人が増えた。加えて核家族化や地域の結びつきの弱体化により孤独に生きていかざるを得ない状況もある。結果、強みを発揮している実感がなく、自分らしい居場所が見つからないから、幸福感は向上しない。
「最適化理論」「発達理論」「超越理論」はどうか。これは身体的な衰え、さまざまな限界、そしてその先にある死から逃げず、抗わず、しっかりと受け入れる。そして成熟、超越の境地に至り、高齢者は幸福を味わうことができる。つまり、ものごとの捉え方、考え方のレベルの高さ、成熟や超越を獲得するという考え方だ。
これは今、多くの人が関心を向けるアンチエイジングやピンピンコロリのような若々しさを維持しようとする姿勢とは逆だ。精神的成長や成熟には目を向けず、健康や外見にばかり気をとられているようでは、衰えていくのは当たり前なので否定的な感情を持ちやすく、幸福感の向上は望むべくもない。
高齢者の新たな“生き方”を構築する必要性
要するに「ご隠居モデル」「生涯一職人モデル」「超越老人モデル」による幸福は、段々と難しくなってきており、このままだと次世代が高齢者になるころには、「幸福のパラドクス」は消えてなくなってしまう、つまり、年とともに幸福感が低下していく可能性がある。これが、高齢化社会における本当の問題ではないか。そして、これを解決するためには、新たな高齢者の「生き方モデル」を共有する必要があるだろう。
高齢化率(全人口における65才以上の割合)は、1980年代には10%に満たなかったが、現在は24%を超え、2025年には30%に達すると言われている。30年前は10人に1人だった高齢者が、4人に1人となり、10年後には3人に1人となるのだ。
例えば、年寄りのわがままや身勝手は、10人に1人なら構わないが、3割もいれば見過ごせなくなる。だから規範を意識し、自律的で、尊敬に値するような言動が求められる。弱者として支援や施しを受けるのをよしとしない、自立した姿も大切だ。3割もの“弱者”がいる社会が、楽しく活発なはずがない。
現役世代2人が高齢者1人を支えるのは無理なのだから、高齢者が戦力でい続けるのも重要だ。高齢者は豊富な経験に基づく知恵や能力を持っているのだから、さまざまな形で社会や地域へ貢献できるし、それは責務と言えるだろう。このように、人口構成が変われば、高齢者の生き方も変わらざるを得なくなる。
過去からの連続ではなく、まったく新しい局面を迎えているという自覚を持って、新たな高齢者の「生き方モデル」を構築する。これが、真に急がねばならない課題なのだ。
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