もし経営者がアリストテレスを読んだら?:小林正弥の「幸福とビジネス」(2/3 ページ)
ビジネスの世界でよく語られる「経営哲学」。これはいわゆる学問的な哲学と関係するのだろうか。この難問についてアリストテレスはどう考えるのだろうか?
アリストテレス流エクセレント・カンパニー
米国型経営を導入した結果はどうじゃったろうか。カルロス・ゴーン氏の下で日産が立ち直ったので成功例として挙げられているが、逆にソニーは導入して注目を集めたものの失敗している。米国型経営が成功するとは限らない。
本家本元の米国でも米国型経営の問題点が自覚されるようになっている。一方で、家族やチームのようにメンバーが連帯して働く企業が成功例として注目されて「エクセレント・カンパニー」と呼ばれるようになっている。日本型経営の方へと逆に接近しているわけである。
このような方向はむしろ当然である。手前味噌だが、このワシ、アリストテレスの「人間は政治的動物だ」という名言は有名だが、これは「最高の共同体において善く生きるという本性を人間は持つ」という意味である。今の世界では企業が人間の働く場の中心になっているのだからそれが共同体になってこそ、人間はそこで美徳を身に付けて善を実現していくことができる。だから会社が一種のコミュニティーになることが望ましい。
とはいえ、かつての日本型経営だけでは時代の変化に対応することができない。今は個人の個性や自由が尊重されるようになってきており、それを圧殺するようでは従業員が喜んで働けない。現場の発想を汲み取って大胆なイノベーションを行ったりすることも難しい。それではどうすればいいのじゃろうか。
ここでも前回にお話した「中庸」が指針になる。個人と企業を考えるとき、どちらの両極に偏るのも望ましくなく、そのバランスを取るのが今の時代にふさわしい。このような中庸の経営を「アリストテレス的エクセレント・カンパニー」と呼んだら分かりやすいじゃろう。ワシが強調している美徳(アレーテー)という言葉は「卓越性(エクセレンス)」という意味も持つから、エクセレント・カンパニーとは「卓越した美徳企業」ということになる。
このような企業は、その活動を通じて顧客をはじめ、人々や社会の幸福にも寄与することを目指す。実はこのような高い理念を掲げているところが日本の優れた企業には少なくない。企業こそが今日の経済の中心だから、本当に人々の幸福のためになれば世界は確実に幸福になっていくのである。
……おっと、時間が来たようじゃ。それでは、ビジネスパーソン諸君、これでおさらばじゃ!
関連記事
- 相次ぐ企業不祥事、アリストテレスならどう見る?
ビジネスにおいて「美徳」は必要なのだろうか? 最近相次いで起きている企業の不祥事を見ていると、その答えは「Yes」と言わざるを得ないだろう。 - もしビジネスリーダーがアリストテレスを読んだら
「ビジネスに幸福は必要か?」――。この命題に対して、哲学者・アリストテレスならどう答えるだろうか。人気番組「ハーバード白熱教室」で解説者を務めた小林正弥教授がひも解く。 - 「高齢=幸福」ではなくなる――高齢化社会における“本当の”問題とは?
老いをネガティブに捉えている人にとっては意外かもしれないが、人は高齢になるにつれて幸福度が上がっていくという研究結果が出ている。「幸福感のパラドックス」と呼ばれるこの現象は、今後崩れていく可能性が高い。それはなぜなのか。 - もしドラだけじゃない! “ビジネスノベル”が増えているわけ
最近、書店のビジネス書コーナーでは、若い女の子が表紙になった物語形式の本が増えています。その背景には、ビジネス書側、小説側、それぞれの事情が関係しているようです。 - まだまだ未熟な経営者が、大切にしてきた7つのこと
20代半ばで独立してから今日まで、とにかく必死に走り続けてきた約16年間だった。経営者としてさまざまなことを経験し、そして多くを学んできた。今回はそこで得たことをいくつかお伝えしたい。 - ヴァン・ヘイレンの元ボーカルから学ぶ、ビジネス成功の哲学
ロックミュージシャンのサミー・ヘイガーをご存じだろうか。「ヴァン・ヘイレンの元ボーカリスト」といえば、「そーいえば……」と思い出した人もいるのでは。そのヘイガーが、いまビジネスで大成功を収めているのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.