スズキとダイハツ、軽スポーツモデル戦争の行方:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
軽自動車のスポーツモデルにおける代表的な国内メーカーといえば、スズキとダイハツだ。両社の戦略は一見同じように見えて、その根っこ部分はかなり異なるのだ。
2015年暮れ、スズキとダイハツに軽スポーツのニューモデルに関する動きがあった。一見同じような戦略を取っているように見えて、実は根っこの部分でそのスタンスはかなり違う。今回は軽スポーツモデルマーケットとそれを巡るスズキとダイハツの対応について考えてみたい。
復活したアルト・ワークス
スズキがニューモデルとして送り出したのは、往年のハイパフォーマンスモデルの名前を復活させたアルト・ワークスだ。車両そのものは既に秋の東京モーターショーで発表済みだったので、情報としての新鮮さはないものの、商品はとても新鮮だ。
何と言っても、この種の「ホットハッチ」は小型スポーツ車の王道モデルの1つ。ハッチバックボディの小型車にハイパワーエンジンを積んで速く走らせるこのジャンルは、かつて若者の人気の中心であり、中高年のドライバーには今でも特別な思いがある人は多い。
スポーツ系のクルマが価格的に手が届きにくくなっている現状というのもある。現在そういうクルマを手に入れようと思えば、あくまでもざっくりした話だが、普通車(正式には登録車)だと300万円、軽自動車だと200万円と、どうしても高価になりがちだ。この手のクルマが150万円そこそこの値段から手に入ることの意味は大きい。手ごろな価格のモデル追加によって軽スポーツマーケットがにぎやかになる可能性は高い。
温故知新 軽量というメリット
そもそもベースになったアルトが革新的だった。エンジニアリング的見地から見て、全長全幅に厳しいサイズ制限がある軽自動車で室内空間のバリエーションを作り出すには高さを変えるしかない。だから、現在、軽自動車には車高別に3つのクラスがある。ざっくり言って10cmずつ車高が違うと思えば分かりやすい。1.5m台、1.6m台、1.7m台という具合で、現状、軽自動車の売れ筋は上の2つ、つまり高さでスペース効率を稼いだ箱形の背高モデルが主流になっている。
ところが、一昨年の暮れにアルトが驚くべき軽量ボディを採用してデビューし、影の薄い存在だった背の低いモデルが久々の脚光を浴びた。当たり前だが、デカけりゃ重い。最も背の高いクラスは軽自動車でありながら既にほぼ1トンに達している。大きさだけの問題ではなく、衝突安全基準が改正されて以降、質的にも変わらざるを得なかった軽自動車は、もはや800kg超えは当たり前になっていた。そこを650kgに抑えて登場したアルトは多くの業界関係者を驚かせた。
さらに昨年春、このアルトにハイパワーモデルであるターボRSを追加したことで、軽自動車のパフォーマンス指向が一気に加速した。ボディが軽量だと判明した段階で多くのスポーツカーファンは、これに高出力エンジンを組み合わせることを期待したから、ターボRSはまさにファンが待ち望んだモデルと言える。スズキにとってはダイハツのコペンや、ホンダのS660という各社の軽スポーツモデルに対抗する意味でもハイパフォーマンスモデルをラインアップすることは重要な意味を持っている。
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