スズキとダイハツ、軽スポーツモデル戦争の行方:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
軽自動車のスポーツモデルにおける代表的な国内メーカーといえば、スズキとダイハツだ。両社の戦略は一見同じように見えて、その根っこ部分はかなり異なるのだ。
コペンの長期戦略
このアルトワークスの挑戦を受けて立つダイハツ・コペンはどんな戦略を取っているのだろうか? コペンというクルマは、一言でいってダイハツの秘蔵っ子である。先代コペンはダイハツ史上で初めて、同社のアイコンとなるモデルへと成長した。老若男女に広く、12年間にわたって愛された。しかし、初代コペンはダイハツ自身、そんなモデルになることを予想だにしない、ある種一発芸のクルマとしてデビューしたモデルだった。
ところが、ベースになったL700系のミラが、軽ターボ戦争時代の他社競合戦略上、屈強なボディを与えられていたことが幸いし、さらりと作ったはずが、顧客の期待を上回るスポーツ性を発揮した。オープンという希少な個性を持ち、また一発芸だからこそ、コロリと丸い、機能よりキャラクターデザインを優先した形にできた。
この秘蔵っ子のモデルチェンジは本当に大変だっただろう。要素は3つある。「走り」「オープン」「キャラデザイン」。失礼ながらまぐれ当たりしたその要素を、今度は意図して当てなくてはならない。走りは真面目にやれば何とかなる。オープンは重量とボディ剛性のバランスをどう取るかが問題だが、まだ何とかなる。しかしデザインばかりはどこでどう当たるかが予想できない。ミズモノ性が高いのだ。
そこでダイハツは意表を突く戦略に出た。通常、現代のクルマはモノコックボディ構造を取っている。これは卵の殻のような外骨格構造で、ボディの外皮(あるいは外皮に近い部分)が強度部材になっており、比較的軽量でありながら高い剛性を実現できる。つまり乱暴に言えば、外皮が骨格を兼ねる昆虫のような造りだ。しかし、ダイハツはコペンでいわゆるフレーム構造を採用した。こちらは多少の重量増加を許容する代わりに、外皮は強度に貢献しない。つまりフレームと外皮を分離したわけだ。
着せ替えボディが与える選択肢
これにより、強度に影響を与えることなく、ボディデザインを好きなだけ変えられるようになった。つまり、ミズモノのデザインに何度でもトライ&エラーができる体制を整えたのだ。
こうしてできあがった新型コペンは実際に乗ってみても、侮りがたい実力を持っており、担当主査が「新型コペンはリアルスポーツカー」と豪語する通りのものになっている。さらにボディ外皮はクルマの購入後も別のデザインに変更できる。パネル一式約34万円という価格が高いか安いかはともかくとして、こんなスポーツカーの楽しみ方がメーカーによって提供されることは極めて希であることは確かだ。
つまり一度ベースを作ってしまえば、着せ替えのボディを何通りでも用意して、常に商品鮮度を高めながら長期間にわたって販売できる。当然その間は貴重な人的開発リソースを再投入する必要もない。ダイハツがD-Frameと呼ぶこの構造は、ヒット作である先代モデルをどうフォローアップしていくかというソリューションとして、天才的だと筆者は思っている。
さて、その上で、ダイハツはコペンのデザインバリエーションを追加しようとしている。1月15日から開催される東京オートサロンでは3つのボディを参考出品する予定だ。タフなSUVの方向性を打ち出した「コペン・アドベンチャー」、機械式オープンルーフの重量増加を嫌うユーザーに向けた「コペン・セロ・クーペコンセプト」、さらに荷室容量の拡大を意図する「コペン・ローブ・シューティングブレークコンセプト」の3台だ。
これらのモデルを参考出品して、反応を確かめ、好評であればすぐさま生産に移せるところがD-Frameのメリットだ。本来デザインが変われば、衝突安全試験からやり直す必要があるが、その膨大なコストと手間と時間が全部いらない。フットワーク軽くできる。
端的に言えば、開発の冗長化と言い換えることができるだろう。あえてシャシーとパネルの機能を分化させたことのメリットを徹底的に享受していくつもりだ。
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