ベースボールの“情報漏洩事件”から見えるスポーツのサイバースパイ:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
2014年、米大リーグで情報漏洩事件が発生し、全米で話題になったことをご存じだろうか。カージナルスの幹部がライバルチームの情報を盗んでいたことが明らかになったわけだが、彼はどのようにしてハッキングを行ない、極秘情報を盗みとったのか。
罪状認否で驚くような発言
コレアは自分が特定されないように、匿名通信システムを介していたと見られている。またアストロズ幹部の電子メールなどから、選手のトレードやスカウトに際してアストロズが他球団オーナーたちとのやりとりした記録なども流出。そのデータからは個人名が飛び交う交渉の舞台裏が垣間見られるのだが、名指しされたチームや選手にしてみればいい迷惑だろう。
ちなみにイチロー選手についてはどのような情報があったのだろうか。当時所属していたニューヨーク・ヤンキースが、イチローの年棒650万ドル(約7億6000万円)のうち450万ドル(約5億3000万円)を負担してもいいからアストロズに彼を引き取ってもらいたがっている、という裏話が漏れた。
コレアが盗み見た情報の価値は、170万ドル(約2億円)規模だと試算されている。資金や足を使って収集した選手のデータや、何にも変えられない経験によって分析した情報が盗まれてしまうのは経済的にも大きな損害だと言える。企業に当てはめれば、R&D(研究開発)の情報が外部に流出してしまうのと同じことだ。
アストロズに対するサイバー攻撃のようなリスクは、決して他人事ではない。例えば一般社会でも、転職をしてもいつも同じようなメールアドレスとパスワードを使っていれば、転職先のサーバが悪意ある人に侵入されたり、知らぬ間に情報を漏らしてしまう可能性がある(ちなみに世界のネットユーザーでパスワードを「password」にしている人は全体の20%に上るとも言われている)。そういう入り口から、さらに大規模な産業スパイといったサイバー攻撃を実行させる隙を与えることもある。一度侵入されれば、ユーザーが気づかないままずっと長期的に潜伏されてしまうことだってある。
コレアはまた、罪状認否で驚くような発言をしている。彼がグラウンド・コントロールに侵入した際に、アストロズ側もカージナルスの極秘情報をもっていたと証言したのだ。何者かがカージナルスから情報を持ち込んだ、もしくは何者かがカージナルスのシステムに不正アクセスをしたと示唆した。アストロズは疑惑を否定しているので信ぴょう性のほどは分からないが、この話については今後さらに詳細が出てくる可能性がある。
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