SpaceXの快進撃をどう止める? 迎え撃つ航空宇宙大手Airbusの戦略:宇宙ビジネスの新潮流(1/2 ページ)
イーロン・マスク率いるロケットベンチャー・米SpaceXの勢いが増している。いよいよ従来からの航空宇宙企業とのガチンコバトルが必至の状況になってきた。その代表格であるAirbus(エアバス)の戦略から宇宙ビジネス市場をひも解きたい。
カリスマ経営者、イーロン・マスクが創業した米ロケットベンチャーSpaceXの快進撃が止まらない。2015年末にはFalcon 9ロケットの第一段目の再利用に向けて、陸上での直立状態での着陸・回収実証に成功した。先日実施した海上での着陸には失敗したが、再利用にむけて着実に歩を進めている。
こうした攻勢に対して、従来からの企業である航空宇宙大手の米Boeing(ボーイング)、米Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)、欧Airbus(エアバス)などはどのように対峙しているのだろうか。今回はSpaceXとロケットや衛星市場で競合し、買収戦略やシリコンバレーへの進出も始めたAirbusの戦略を追ってみたい。
Airbusは過去10年間成長を続けている
欧州を代表する航空宇宙大手企業のAirbusは非常に巨大なコングロマリット(複合企業)である。一般的によく知られているのは航空機メーカーとしてだが、宇宙事業を担当しているのはAirbus Defense & Space(以下D&S)という会社だ。
2014年に前身であるEADSグループ再編時に防衛・宇宙関連の3部門が統合した組織であり、現在はAirbusグループ売上高の約20%を占める重要部門である。さらに、仏航空宇宙大手のSafranと50%ずつ出資して、ロケット開発・製造会社のASLも設立している。
宇宙事業の売り上げは2006年時点で約30億ユーロ(EADS時代の数値)だったが、直近2014年には倍の約60億ユーロにまで成長してきている。成長の源泉の一つは企業買収だ。2008年には英国の大学発小型衛星ベンチャーであるSurrey Satellite Technology を約1億ドルで買収したほか、2006年以降に大小10社以上の宇宙関連企業を買収している。
ロケット打ち上げ市場でSpaceXとガチンコ
昨年6月には子会社のASLを通じてアリアンロケットを運用する欧Arianspaceの株式を追加取得した。具体的にはCNES(フランス国立宇宙研究センター)保有分35%の譲渡を受け、従来からの保有分も含めて過半数を保有した。「民間が実権を握ることにより、競争力あるロケットが開発できる環境を整備した」と表明しており、世界市場における競争力強化が狙いだ。
Arianspaceは、1980年に欧州12カ国・53社が出資して設立。1990年代から商業衛星の打ち上げ需要拡大に合わせて成長し、これまでに約250機の衛星打ち上げに成功してきた。商業衛星打ち上げ市場の多くは通信衛星で、Arianspaceは50%〜60%の高い市場シェアを確保してきた。しかしながら、この市場で近年SpaceXが急激に存在感を示してきているのだ。
SpaceXは、NASA(米国航空宇宙局)と共同で国際宇宙ステーションへの物資輸送開発やサービス契約(COTS/CRS)を起点にロケット開発を進めてきた。ただし、過去実績および将来計画にある計67回の打ち上げに関するデータを読み解くと、米国政府やNASAは全体の3分の1にすぎない。残りは海外政府や民間企業が顧客となっているなど、既にグローバルプレイヤーとしての存在感を発揮している。こうしたSpaceXの台頭に対して、Airbusグループとしてもそこに勝つための競争力強化が命題となってきているのだ。
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