世界一の「安全」を目指すボルボの戦略:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
世界で初めてクルマに3点式シートベルトを導入したのがボルボだ。それから55年余り、同社の「安全」に対する徹底ぶりは群を抜いているのだという。
次のステップに入った安全対策
では、次にやらねばならない対策は何かと言えば、脊髄の損傷対策である。脊髄が損傷すれば死に至ることもあるし、半身不随になることもある。その深刻さにおいて留意されるべきなのは間違いない。
脊髄損傷がどういう場面で起きるかと言えば、意外にも道路からの逸脱事故が多いのだとボルボは言う。つまり、居眠りや脇見、あるいは他車との接触などの影響で道路から逸脱し、土手などの地形によって車両が大きくバウンドして着地するときに、人体の構造強度を超えた縦加速度によって脊髄が損傷を受けるのである。
ボルボはこの縦加速度に対する衝撃吸収構造を世界で初めて実現した。発想の原点になったのは、戦闘機の緊急脱出シートとヘリコプターのシートだという。戦闘機のシートは、緊急時にボタン操作によって上方へ打ち出される。動力は火薬である。乗員を乗せたままのシートは超高速で打ち上げられ、自動でパラシュートが開いて着地する。
ご存じの通り、戦闘機は音速で飛ぶので、のん気な打ち上げ速度だと脱出した乗員が風圧で流されて垂直尾翼に当たってしまう。だからこそ強力な火薬が使われるのだが、その代償としてとんでもない縦加速度が加わり、脊髄損傷に至るケースは少なくないのだという。もちろん脱出しなければ死ぬので、四の五の言ってられる状況ではないから打ち出すしかない。そこで最低限のリスクヘッジのために、シートがつぶれて乗員への衝撃を緩和する構造になっているらしい。
ボルボはそこに着目した。座面とシートレールの間にクラッシャブル構造のプレートを挿入し、強い縦加速度が加わると、このプレートが変形して衝撃を吸収するようにしたのである。
装置の作動の流れも説明した方が良いだろう。まずは一体型のミリ波レーダーとカメラユニットによって、車両が道路を逸脱したことを検知する。次に、電動のシートベルト巻き上げ機構が作動して身体拘束をスタート。縦方向の衝撃吸収はパッシブな仕掛けなので、縦加速度が発生したときにつぶれて衝撃吸収する。
この新しい脊髄損傷防止装置は「ランオフロードプロテクション」(道路逸脱事故時保護システム)と名付けられた。今後統計的事例が積み重ねられていく中で、どれくらい死亡や重傷事故を防げるのか興味深い。ボルボでは「2020年までに新しいボルボ車において、交通事故による死亡者や重傷者をゼロにする」という「ビジョン2020」を掲げている。
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