機械vs人間の競争、行きつく先は……?(1/2 ページ)
囲碁ソフトが欧州のプロ棋士と対戦して5戦5勝したという。今ではコンピュータは人間と同じように微妙な判断も行えるようになっているのだ。将来、両者の競争はどのように進んでいくのだろうか……。
囲碁よ、お前もか!
囲碁ソフトが欧州のプロ棋士と対戦して5戦5勝したと報じられている。
1997年にチェスの世界チャンピオンがスーパーコンピュータに敗れて以来、複雑な判断を要する知的労働の分野でも人間の仕事を機械が十二分に代替できることを多くの人が理解したが、それにはまだ時間がかかると考えられていた。2013年にプロの現役将棋棋士がコンピュータに負けた際に、筆者は以前、コンピュータの能力は急速に人間に近づいているが、「すべての分野でコンピュータが人間にとって代わるということは簡単には起きないだろう」と書いた。
囲碁はチェスや将棋よりもはるかに複雑なゲームなので、コンピュータがプロの棋士に勝つようになるのは容易ではないだろうと思っていた。ところが、コンピュータが囲碁でもプロに勝利したことは大きな驚きだった。その理由は、単純にコンピュータの計算速度が速くなったということだけではなく、手法の革新によるところが大きいのだそうだ。
コンピュータは「ゼロかイチか」という判断しかできず、超高速の計算能力を生かしてしらみつぶしにあらゆる手を検討していると思っている人も多いが、人間と同じようにあいまい微妙な判断も行えるようになっている。
とりわけ大きいのは、コンピュータ自身が学習する能力を持つようになったことだ。言語間の翻訳作業でも、非常に多くの良い翻訳や悪い翻訳の例を学習させることで、同じ表現でも、どういう文脈でどのように翻訳すべきか、という判断を徐々に改善していくことができるのだそうだ。学習する機能を持たせることで、人間の脳が画像や音声を認識する仕組みの研究を利用して、対戦を重ねることで囲碁のソフトは急速に強くなっているという。
悲観論は誤り
2016年に入ってからの世界経済は、金融市場の大きな変動に見舞われている。背景にあるのは、先進国経済の回復が思わしくないことと、これまで世界経済の成長を支えてきた新興国経済、とりわけ中国経済の拡大速度の鈍化だ。人口増加速度の低下に加えて、技術革新の速度が低下しているという悲観的な見方もある。技術革新の世界でも、簡単に収穫できる低い枝に生っている果実は取り尽くしてしまい、残っているのは取り難い高いところに生っている果実だけになってしまったという見方だ。しかし、予想をはるかに上回るコンピュータの能力の向上を見ると、こうした見方は悲観的に過ぎるように見える。
コンピュータが人間と同じように学習する機能を備えるようになり、機械の能力が向上し続け、ほとんどの面で人間の能力を超えるようになったときに何が起こるのだろうか? ケインズが我々の孫の世代は経済的な問題から解放されていると予想した。ケインズはバレリーナと結婚し、ブルームズベリー・グループと呼ばれる芸術家たちの一員でもあった。あくせく働く必要性がなくなった人々がなすべきことは、文学や芸術だと考えたのではないだろうか。
今後も機械の性能をもっと高めるために研究開発を行う人は必要だろう。しかし、すべての人が研究開発のために働く必要はないだろうし、そのために必要とされるような専門能力を持った人たちは限られている。生活必需品だけでなく趣味や娯楽のためのぜいたく品も、すべて機械が生産してくれるようになり、ほとんどの人は働く必要はなくなるのだろう。
人口高齢化で懸念される人手不足という問題も、いずれは機械の性能向上で解決されてしまうことになる。こうした明るい未来像に対して、もちろん心配もある。人間よりも優れた機械がすべてを判断することになりSF小説に出てくるように人間が機械に支配されてしまうのではないかという不安だ。
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