迷走する長崎新幹線「リレー方式」に利用者のメリットなし:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
「長崎新幹線」こと九州新幹線(西九州ルート)は、フリーゲージトレインの開発が遅れて2022年の開業が難しくなった。そこでJR九州が提示した代案が「リレー方式」。列車を直通せずに途中駅で乗り換えを強いるという。そんな中途半端な新幹線はいらない。
「フル規格」を拒む佐賀県を悪者にするな
さらに理由を遡れば、そもそもなぜ、新鳥栖〜武雄温泉間は在来線か。この区間もフル規格新幹線にすれば、フリーゲージトレインもリレー方式も不要だった。いや、佐世保行き直通列車のために、フリーゲージトレインはいずれ必要になるとしても、新鳥栖〜長崎間はフル規格新幹線のほうが合理的だ。JR西日本は、フリーゲージトレインは車体が重いため山陽新幹線に乗り入れたくないと考えている。フル規格新幹線なら新大阪〜長崎間の列車を運行できる。
この在来線区間が残った理由は佐賀県にある。フル規格新幹線を建設したところで、佐賀県のメリットは少ないのだ。博多〜佐賀、武雄温泉間の時間短縮効果は小さい上に、佐賀県の実質負担金は700億円以上と見込まれた。博多〜長崎間の時間短縮が重要なら、その費用は長崎県が負担するべきだし、国策として新幹線を作るなら国が負担すべきだ。佐賀県としては、フル規格新幹線が開業し、その結果として並行在来線が切り捨てられるほうが困る。
佐賀県を説得しつつ、九州新幹線西九州ルートを実現するために、肥前山口〜武雄温泉間は新幹線整備の名目で在来線を複線化すると決めた。並行在来線化する長崎本線の肥前山口〜諫早間については、当初はほかの新幹線の並行在来線のように、肥前鹿島までJR九州が保有し、肥前鹿島〜諫早間はJRから経営分離する枠組みだった。
しかし、長崎本線の沿線自治体である佐賀県の鹿島市と江北町が経営分離に反対する。佐賀県も両自治体が納得しなければ新幹線着工は認めない姿勢だ。そこで異例の解決策として、従来の「JRから切り離し」ではなく「上下分離化」とし、線路設備は自治体が保有するとして、運行は当初20年間はJR九州が継続することになった。21年目以降は両県とJR九州が再度協議する取り決めになっている。
九州新幹線西九州ルートの建設については、佐賀県の動向に振り回されたように見える。しかし、佐賀県にしてはもっともな理由ばかりだ。そもそも新幹線の建設にあたり、通過する都道府県に距離に応じた建設費負担を求めるという枠組み自体がおかしい。だから佐賀県を悪者にしてはいけない。九州新幹線西九州ルートは、整備新幹線の制度のひずみが凝縮し、一気に吹き出したと見るべきだろう。
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