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迷走する長崎新幹線「リレー方式」に利用者のメリットなし:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
「長崎新幹線」こと九州新幹線(西九州ルート)は、フリーゲージトレインの開発が遅れて2022年の開業が難しくなった。そこでJR九州が提示した代案が「リレー方式」。列車を直通せずに途中駅で乗り換えを強いるという。そんな中途半端な新幹線はいらない。
新在直通方式なら、車両はJR東日本に実績がある。もともと短縮できる13分に加えて、乗り換えが不要だから所要時間は5分短縮できる。博多〜新鳥栖までは新幹線鹿児島ルートを使うため、さらに10分短縮できる。従来の博多〜長崎間の直通特急に比べて、合計28分の短縮となり、所要時間は1時間20分となる。実はこれ、フリーゲージトレインを使った博多〜長崎間の最速所要時間の目標と同じだ。実用化のめどの立たない車両を使うより現実的ではないか。なぜ始めからこの方式にしなかったか。
そして何よりも強みは、山陽新幹線へ乗り入れが可能になる。フル新幹線よりも小型軽量なミニ新幹線の強みだ。新大阪や広島、岡山からも博多駅で乗り換える必要はない。これは佐賀県内の新幹線停車駅にもメリットが大きい。佐賀県はそこに気付いてほしい。そうするとフル規格化に理解が深まるだろう。
私が書いた内容など、JR九州は分かっているはずだ。分かっていて、あえてリレー方式という半端なアイデアを出したと私は考える。JR九州は本気でリレー方式をやろうとは考えていない。自己の責任範囲で代案を出し、議論を巻き起こす。そして、自社では提案しにくいフル規格新幹線への転換か、ミニ新幹線か、どちらかの結論を引き出そうと考えているに違いない。
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