中古車買い取りビジネスの仕組み:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
街道沿いなどでよく見掛ける「中古車買い取ります」という看板。こうした中古車買い取り業者のビジネスモデルとは一体どのようなものなのだろうか?
ユーザーにとっての落とし穴
では、買い取り専門店にビジネス上の穴がないのかと言えば、そういうわけでもない。顧客とのトラブルもそれなりに発生している。一番の問題は査定額のミスだ。下取り査定の際、買い取り店は売り手に事故歴などを聞き取りする。しかし正直に申告する人ばかりではない。加えて、ほぼ例外なく、客が待っているその場で査定をしなくてはならない。さらに近年のクルマは燃費向上を目的にボディ下面はアンダーカバーに覆われており、短時間で細部のチェックをするのが難しい。その上、既述のようにできるだけ高額査定をして競合他社に勝ちたいという気持ちも働く。
その結果、買い取り契約後、子細に調べたら事故歴があったというケースがある。オークションに出せば当然予定した価格では販売できないので損になる。こうしたケースを予防するために、中古車の買い取り契約書には小さな文字で「買い取り価格は契約後に変更することがある」と書いてあることが多い。
契約後に買い取り価格を下げると一方的に言われて黙っている客はいない。加えて、契約書に記載される査定額の引き下げ決定権が非対称で、顧客にとっては、業者側が悪用しようと思えばいくらでも可能であると感じる。揉めた末、「だったら売らない」となると、今度はキャンセル料を請求されたりする。これも契約書に記載されているのだが、こうなるともう泥仕合だ。査定額の再見積もりまでは仕方がないとしても、多くはキャンセル料の設定金額を高くしすぎていることが問題を大きくしている。
また薄利多売のシステムで問題になるのが名義変更のコスト。手数料ももちろんだが、車庫証明が必要なため、最短でも4日程度はかかる。この間クルマを寝かしておかなくてはならない。そのため「名義変更はオークション落札者がすること」として、売り手の名義のままオークションに出す業者もいる。落札した中古車屋が名義変更する前に駐車違反をしたり、オービス(自動速度違反取締装置)に引っかかったりしたらどうなるかは想像できる。
もちろん買い取り業者の全てがこういう問題を含んでいると言うつもりはないが、ユーザーが慣れない買い取りでたまたま飛び込んだ業者があまり良心的でないと、いろいろと問題になる可能性があるのだ。しかも大手だから安心とは必ずしも言えないところがまた問題なのである。
つまり、ユーザーにとって快適とは言えないこれらの問題に対してソリューションを提供することができれば、また新しいビジネスチャンスがあるとも言える。中古車買い取り業界がユーザーが安心できる新しい業界基準を作るのか、それとも新車ディーラーが資金力と信用をベースにこのジャンルに乗り出すのかはとても興味深い。
中古車流通はメーカーにとってまだまだ開拓余地のあるビジネスだ。国内で新車の販売台数増加を期待するのが難しい今、クルマのライフタイム全てでビジネス化を進めていかないと、企業としての成長を維持できない可能性もある。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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