アメリカの研究機関が、家電を兵器に変えるアイデアを募集するワケ:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
米バージニア州にある「DARPA(米国防高等研究計画局)」が、最近興味深いプロジェクトを立ち上げた。その名は「Improv」。一体、どんなプロジェクトなのかというと……。
米国の軍事的技術力がトップを走り続ける理由
このImprovプロジェクトは、これまでDARPAが独自プロジェクトでテクノロジー分野を牽引してきたことを考えれば、これから世界が進む1つの方向を示していると言えなくもない。つまり、いま手元にあるような身近な電気機器が思いがけず兵器に転用されてしまう世界だ。
それがサイバー空間ともなれば、近年話題となっている家電などがインターネットなどでつながっていく、いわゆるIoTの時代に、そうした脅威が個人の生活に直接及ぶことを意味する。ますます自動化と遠隔操作が進んで行く世界では、それを悪用できるリスクも高まっていく。「サイバーテロ」ならぬ「IoTテロ」の世界を想定しているのかもしれない。
米国が軍事的技術力において世界でぶっちぎりのトップを走り続けている理由は、膨大な軍事費もさることながら、DARPAのような研究にも力を入れていることが挙げられる。DARPAだけでもその予算は2017年度に29億7000万ドル(前年比1億ドル増)だが、DARPAは国防総省が誇るいくつもの優秀な研究施設の1つに過ぎない(米海軍調査研究所やリンカーン研究所などが有名だ)。
DARPAの強みは、民間企業や研究所、大学などとの連携にある。提携関係にあるプロジェクトは現在、2000件を超すという。とにかく規模が大きく幅広いため、今回のImprovプロジェクトも、実はDARPAで現在進行している250のプログラムのひとつに過ぎない。同じような研究が多く進められているのだ。
このように世界最強の軍を抱える米国の軍事技術を支えるDARPAのような研究所を、中国が真似しようとするのは当然なのかもしれない。中国は近年、軍事力の強化を続け、さらに軍備の近代化を進めている。ただ2016年に中国は防衛に1470億ドルの予算を配分しているが、そのうちどれほどがR&Dに充てられるのかは不明である。
ただ中国と言えば、軍事においてもパクリだらけだ。著者の知る元国防省関係者は何度も、サイバー攻撃で米軍から兵器の設計図など莫大な機密情報を盗んでパクっている中国が、独自に何かを作りたいと考えるのは勘違いだと主張している。事実、サイバー攻撃で米軍の機密情報を大量に盗んでいるのは米政府関係者の間でもよく知られている。
中国の軍部がパクリ文化から抜け出すためには、DARPAのような研究機関を作るのが急務だということだろう。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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