北海道新幹線、JR北海道のH5系電車が2本しか稼働しないワケ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
北海道新幹線がらみのビジネスの話題をお伝えしたかったけれど、私の情報力不足のせいかネタが少ない。そこで、今回は鉄道ビジネスの慣例を1つ紹介しよう。鉄道業界で古くから行われている「物々交換」だ。鉄道会社同士で「ある取引」を精算するとき、資金を移動させない方法がある。
新聞にマニアックな「箱ダイヤ」掲載
北海道新幹線で使用する車両は、JR東日本のE5系とH5系だ。E5系はJR東日本では「はやぶさ」の車両として認知度が高い。H5系はE5系のJR北海道版だ。どちらも仕様はほぼ同じ。外観ははやぶさのロゴマークと窓下の帯の色が異なる。内装もH5系は北海道を意識したデザインになっている。
北海道、特に道南の人々は、「せっかく北海道新幹線に乗るならJR北海道所属のH5系電車に乗りたい」と思うようだ。鉄道ファンも同じ理由で一番列車よりH5系にこだわる人もいるだろう。ところがH5系の運行本数はとても少ない。その理由は鉄道業界に残る「物々交換」の習慣にある。
2月19日、北海道新聞の電子版は「新幹線H5系、会いたいけれど… 新函館北斗発着1日わずか4本」という記事を掲載した。JR北海道はH5系を4本のみ保有し、稼働する編成は2本。残り1編成は稼働編成が立ち往生した場合のけん引用。あとの1編成は定期検査用として、ローテーションを組むという。JR東日本はE5系を28編成も保有しているけれど、JR北海道はH5系を4本しか持たない。だからH5系は希少価値。乗ったり見たりしたら幸せになれると言われそうな状況だ。
この記事に付属する図にニヤリとした鉄道ファンも多かったに違いない。H5系の1日の動きを示したグラフだけど、これは鉄道業界で使う「箱ダイヤ」にそっくりだ。斜めの線で表す列車ダイヤとは違い、車両や乗務員のやりくりを示す図である。線がタテヨコ組み合わさって箱状になるため「箱ダイヤと呼ばれている」。数年前から鉄道趣味誌以外のメディアでも鉄道の話題が多く、鉄道専門用語も説明不要になりつつある。それにしても箱ダイヤはレベルが高い。ついにここまで……という感がある。
この箱ダイヤは、少ない資産を効率良く使う段取りを組むときに便利だから、鉄道分野以外でも参考になるかもしれない。
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