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年間生産180万本 それでも「吉田カバン」が職人の手作業にこだわる理由(3/3 ページ)

ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、人気企業・人気商品の裏側を解説する連載。今回は、職人が手作りで年間180万本を生産する「吉田カバン」について読み解く。

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「品質と使い勝手」を追求するため、海外での大量生産はしない

photo 単行本『吉田基準』の表紙(吉田輝幸著・高井尚之構成、日本実業出版社刊)

 吉田カバンの社是は「一針入魂」といい、創業者・吉田吉蔵氏の口ぐせだった。ひと針ひと針を真剣に作業する意味で、取引先の職人にも浸透している。同社が国内職人の手作業にこだわる理由を、吉蔵氏の次男で2002年から社長を務める吉田輝幸氏は次のように話す。

 「まず、創業者の『絶対に日本の職人さんを絶やさんでくれ』という遺言がありました。父はたった2本の針と糸で大型トランクを製作する、卓越した技術を持つ職人で、国内職人の技術の高さを知っていたのです。現在でも技術は高く、仕事を依頼すると、日本の職人さんは細かい部分での補強など、お願いした以上の工夫をしてくださいます」(吉田輝幸氏)

 さらに次のように続ける。

 「そうした技術には敬意を表しますが、新商品では品質と使い勝手を追求して、時には何度もつくり直していただく。工房が近い職人さんとは毎日のように行き来もできます。海外での生産は、家電のように工程を管理して行う単一商品の大量生産には向くでしょうが、2000以上のアイテム数がある当社の多品種少量生産には絶対に向きません」(同)

 同社では「利は元にあり」という言葉も重視しており、高品質なモノを仕上げる職人にを大切にするのが利益の基本だという。一方で、ビジネスマンの納得価格も考え、多くのカバンは1万円台〜4万円台で提供している。広告宣伝を一切行わず、商品開発以外の経費は抑えることで実現できている。「カッコよくいえば、広告ではなく商品が語ってくれる」(同)

 モノづくりだけでなく、コトづくりにも力を注ぐ。現在、同社には「クラチカヨシダ」という直営店が東京・表参道と丸の内、大阪・梅田にあり、「ポータースタンド」という駅ナカ店が東京・品川駅構内にある。直営店の運営により、取引先の百貨店やカバン店経由ではなく、来店客や購入客の「生の声」が直接入るようになったことも大きいという。

 創業者が没して今年で22年。その晩年に薫陶を受けた若手社員だった長谷川進氏(52歳)と桑畑晃氏(47歳)が、現在、デザイナーが所属する同社企画部門を率いる。

 長谷川氏は「吉田カバンらしさとは『いかにして品質を上げるか』を、職人さんも当社の社員も全員で考えていること」と話し、桑畑氏は「創業者が話した『カバンはモノを運ぶ道具である』を踏まえつつ、タブレットの急速な普及のように、中に入れるモノが変わってきたので、消費者意識の変化を踏まえた高品質の製作を追求するのが使命」と語る。

 「創業精神」や「創業の理念」と一口に言うが、ここまで徹底する会社は数少ない。効率性を重視しがちな現代において、効率性とは程遠い手法で品質重視のカバン製作を行う。

 吉田氏は「海外生産をする気はないが、欧米の高感度な消費者に訴求する海外展開への夢はある」と話す一方で、「もし品質を維持できないと判断すれば生産本数を抑える」と語る。効率性とは真逆な手法を取り続けて、業績を拡大してきた吉田カバン。これからも消費者の「信頼」に対して、どう応え続けるかに同社ブランドの今後が左右される。

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