結局のところ、オバマは「ヒロシマ」を訪問できるのか:世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)
「オバマ大統領が広島を訪問するかもしれない」――。関係者の間でこのような声があるが、本当に実現するのだろうか。現実味が高まっている一方で、実現するのにはいくつかの壁が立ちはだかっている。
オバマの広島訪問が難しい理由
そう考えると、核兵器の問題について注目が高まっている今年に、広島訪問が実現するのではないか――そんな声が出るのは理解できるのである。
ただその一方で、著者は元米政府関係者から少し前にこんな話を聞いている。「これまでも話が出ているのにそれでも訪問が実現しなかったということから分かるように、オバマ政権は広島に行かないという結論にいたっているようだ」
この見方が正しければ、今回もオバマは広島を訪問しないことになる。もちろんこのコメント時から事情が変わっている可能性はあるが、実はそんなことよりも、今年オバマが広島を訪問するのは難しいとする声もある。
1つには、今年行われる大統領選とその指名候補争いに与える影響だ。今、原爆で14万人が殺された広島をオバマが訪問するようなことがあれば、加害者が被害者の元を訪問するという形になり、ある意味で加害者からの“お詫び”に近い印象で受け取られることになる。そうなると、米国が弱体化していると声を荒げ、強い米国の復活を標榜し、さらには日本の核武装を容認する発言をしている共和党大統領選指名候補のドナルド・トランプや、オバマを「無気力でナイーブ」と批判するテッド・クルーズ候補に、現政権を批判する格好のネタを与えることになる。つまり共和党を勢い付ける結果になりかねない。
事実、ケリー国務長官の訪問でも、米政府は「謝罪はしない」との方針を強調し、メディアはそれを大きく取り上げていた。この部分は神経質になっているようだ。
今も米国民の半数は、第二次世界大戦における原爆の投下が正当だったと見ている。さらに保守層を中心に、大統領が他国で下手に出るのを嫌う。2009年11月に訪日したオバマが天皇陛下に握手をしながら深々と頭を下げたときは、当時米メディアで、「米国の最高司令官が外国でこびへつらうのはいかがなものか」「米国の大統領は世界の皇族にどこまで低く頭を下げるのか」といった声や、ディック・チェイニー前副大統領はメディアで、「米国の大統領は誰に対しても頭を下げる理由はない」と語ったことが取り上げられた。
そして広島訪問時にオバマの行儀があまりよすぎると、再び米国の弱体化だとする声が上がる可能性がある。そうなると、訪問はレガシーよりもオバマの“弱さ”の象徴と強調されかねない。
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