最初はまったく売れなかった明太子、どうやって福岡から全国区に?:日本初の明太子メーカー・ふくや社長に聞く(1/5 ページ)
日本で最初の明太子メーカーが、福岡市中洲に本社のあるふくやだ。創業すぐに明太子の販売を始めたが、実に10年間も鳴かず飛ばずだったという。そこからいかにして明太子は福岡の名産品にまで育ったのだろうか。
九州・福岡といえば明太子、明太子といえば福岡。このことに異論を唱える人は少ないだろう。
ただし、明太子が福岡の名産だということが人々の間に認識され始めてからは、まだ40年ほどしか経っていない。博多まで新幹線が延伸したことが大きなきっかけだった。
明太子(辛子明太子)は、スケドウダラのたらこを唐辛子などで漬け込んだ食べ物で、ルーツは諸説あるが、日本において初めて明太子を製造、販売したのが、福岡市に本社を構えるふくやだ。
最も古い老舗の明太子メーカーであり、福岡の数ある同業者の中でも売り上げがトップレベルの約150億円。従って、あたかも先陣切って福岡の明太子を全国に広めていった立役者かと思いきや、「ふくやが明太子を全国区にしたわけではありません」と、同社の川原正孝社長はきっぱり。新幹線開通当時、ふくやは福岡市内で2店舗しか展開しておらず、デパートなどへの卸売りもやっていなかった。他の明太子メーカーの方が販路拡大にはるかに積極的だったという。
ただし、ふくやの功績なくして他メーカーの創業は難しかったのも事実。この共存こそが福岡の明太子を世の中に知らしめ、いまや全国消費量が年間3万トンとも言われるまでに明太子を日本の食卓に浸透させたのではないだろうか。
では、どのようにして福岡で明太子が生まれ、それが全国に普及していったのか。ふくやの歩みとともに振り返ってみたい。
最初は自宅で食べるために作った
ふくやの創業は1948年。戦後、沖縄から引き揚げてきた創業者の川原俊夫氏(正孝氏の父)が、妻・千鶴子氏とともに中州市場の一角で開いた15坪の小さな食料品店がその始まりだった。
当時はまだまだ物資が不足し、人々の生活も決して豊かではない時代だったが、社交的な性格だった俊夫氏とそれを陰で支える千鶴子氏夫婦が営むふくやは客からの評判も良く、少しずつ商売が軌道に乗っていった。
そんな折、千鶴子氏が近所の魚屋で塩たらこを買って帰ってきた。戦前、俊夫氏と千鶴子氏は韓国・釜山に住んでいたことがあり、そこで毎日のようにたらこ(明太子)を食べていたという。それを懐かしみながら買ってきた塩たらこを食べたところ、確かに辛さは似ているものの、うま味がまるでなかった。そこで韓国で食べた味を再現してみようと、自分たちの感性で明太子を作り始めたのである。「最初は店で売るのではなく、家族の食卓で食べるために作ったのがきっかけでした」と正孝氏は話す。
せっかくだからと作った明太子を近所におすそ分けするようになった。中州市場で働く人たちの多くも韓国や中国からの引き揚げ者だったので、皆口をそろえて「懐かしい」「おいしい」と好評だった。
「それでは、これを店で売ってみようか」と俊夫氏は自信を持ち、1949年1月10日に初めてふくやの店頭に並べたのである。
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