「お客なんだからエラい」という錯覚が生まれるメカニズム:コンビニ探偵! 調査報告書(4/4 ページ)
先日、お客さんから罵声に関する話を聞いた。どうやら「客なんだから、カネを払う立場だからエラい」という意識が大きくなりすぎてのことらしいが……。そこで、今回は「お客さんはエラいのか?」ということについて考えてみたい。
人は“鏡”
少し専門的な話になるが、「感情労働(emotional labor)※」という言葉をご存じだろうか。社会学者A・R・ホックシールド氏の著書によると、感情労働において労働者は以下の2つの演技を行っているとある。
- 表層演技:感情の表出のみを変化させる
- 深層演技:内面の感情の経験を変化させることによって、適切な感情の表出を導く
近年、感情労働に関する研究は進み、勤務時において感情を表に出すことはネガティブにもポジティブにも作用することが分かってきた。その中で、ポジティブな深層演技によって労働者のストレスが軽減したという事例が見つかったという。
組織的な面から見ても、ポジティブな影響が多くなるとお客さんとの関係も良好になり、社内も活性化することから、現在、ポジティブさを全面に出す企業研修が増えてきている。
つまり、「お客さんはエラい」どうこうではなく、誠心誠意をつくしお客さんといい関係を築くことで業員側のストレスも軽減するメリットがあるということ。人は、自分の気持ちが相手に映し出される“鏡”なのだ。
ただ、尽くすことが本心なら問題ないが、「顔で笑って心で泣いて」というムリな状態が続くと大きなストレスとなり、「お客さんはそんなにエラいのか?」という思考回路に陥ってしまうので気を付けたい。
最近はTwitterやFacebookなどのSNSでお店でのマナーについて議論されることもあり、従業員に対する一方的な“イジメ”とも言える行為は嫌われるようになった。一部のモンスタークレーマーを除いては、従業員を召し使いのごとく扱うお客さんは少なくなってきたように思う。
「お客さんはエラいのか?」。この問いに対して、明確な答えはいまだ持ち合わせていない。ただ、30年以上接客業に関わった筆者の経験から言えるのは、「お客さんはエラくない。エラいと思わせてしまったのは売り手側」だということだ。
接客の基本はいたってシンプル、難しいことではない。お客さんを持ち上げて勘違いさせるのではなく、誠心誠意尽くして良好な関係を築く。プロとしてその仕事にとことん徹すれば、クレームの対応もさほど難しいことではなくなるのではないだろうか。
一方で、コンビニのような接客にスピードを求められるシーンでは、時間をかけて丁寧にすることが、逆にクレームにつながる場合もある。このような場合、従業員側のがんばりとお客さんのニーズに大きな溝を生んでしまう。結果、感情の処理を誤ることになり、ネガティブな感情を生み出す。最悪、精神的に病んでしまうこともあるのだ。
「お客さんはエラいのか」そんな思いがよぎったら、「いやいやお客さんをエラくしている自分がエラい」と思ってみてはいかがだろうか。そんな接客をしている人が、「エラい」のだ。
著者プロフィール・川乃もりや:
元コンビニ本部社員、元コンビニオーナーという異色の経歴を持つ。「タフじゃなければコンビニ経営はできない。優しくなければコンビニを経営する資格がない」を目の当たりにしてきた筆者が次に選んだ道は、他では見られないコンビニの表裏を書くこと。記事を書きながら、コンビニに関するコンサルティングをやっています。「コンビニ手稿」
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