クルマは本当に高くなったのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
最近のクルマは高いという声をよく耳にする。確かに価格だけを見るとその通りだと思う一方で、その背景には複雑な事情があることもぜひ主張しておきたい。
「最近のクルマは高いよね」とよく言われる。確かに軽自動車がものによって200万円と聞くと「全くその通り」と思うが、一方、頭の中には「それはちょっと違うんだよなぁ」と思うもう一人の自分がいる。今回は日本人のデフレ慣れとクルマの価格について考えてみたい。
無茶なローンを平気で組んだ30年前の若者
30年前、筆者がホンダ・ディーラーで整備士をやっていたころのことだ。そのディーラーは珍しいことに四輪だけでなく二輪の販売店も持っており、たまたまそこに配属になっていた時期がある。
二輪のお客さんは四輪のお客さんより概して整備の現場が好きである。工場に入り込んで来ては修理作業を眺めていくので、段々親しくなる。ある日、その常連客のUくんが言う。
「池田さん。俺、今度クルマ買うんですよ」
「へぇー、いいじゃない。何にするの?」
「プレリュードが欲しいんすよね」
「おー、金持ちだねぇ」
「いや、そんなんじゃないっすよ。見積りもらったんですけど、頭金なしの毎月6万円36回ローン」
Uくんは屈託なく笑っていたが、筆者はちょっと心配した。建築資材会社で2トントラックを運転している彼の給料は、恐らく手取りで10万円ちょっと。15万円に届いているとは思えなかった。可処分所得の半分をローン返済に回してしまうのは当時の常識としても危うい。「うーん。50万円だけでも頭金作ってからにしたら?」。彼が欲しがっているE-AB型プレリュードXZは160万円くらいのクルマだ。だが、エアコンとオーディオを付けて乗り出しの価格は恐らく200万円を超えるはずである。
ショールームに戻って電卓を叩いてみると、頭金50万円を用意して48回払いにすれば何とか返済額が4万円を切る。それならまだ何とかなるように思える。だが、同じような境遇の彼の同僚が8万円のローンを組んだことに自信を得て、Uくんは月6万円のローンで本当に買ってしまったのである。こういう無茶なクルマの買い方をする若者は多数派ではないまでもそこそこいた。
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