今日もまたIoT技術を積んだJR山手線が走る その目的とは?(4/4 ページ)
JR東日本が運行する電車の利用者数は一日あたり約1710万人。しかし、それだけの顧客数がいるにもかかわらず、一人一人の顔はほとんど見えない。そんな中、個々の顧客サービスを高めるために同社がリリースしたサービスが「山手線トレインネット」だ。実はそのサービスの裏には同社が注力するある技術が活用されているという。
電子機器の故障予知も
もう1つの効果は、電子機器の不具合を瞬時に把握できるようになったことだ。
線路の変異は直接見れば大体は分かるというが、電子機器はいつどのように壊れるのか、パッと目で見ても分からない。その故障予知などのためにIoTを活用する。
例えば、ドアの開閉に関して、センサで電流の値を収集、そのデータを蓄積することで、正常値を可視化する。もしその値と外れた異常値が出たときに、「そろそろ故障しそうだな」などと予見できるようになる。
このように軌道や架線、鉄道運行に付随する電子機器などをデイリーで検測することで、無駄なく、しかも正確にメンテナンスが可能になる。また、収集データは毎日蓄積されていくので、それを解析して精度の高いメンテナンス予測なども実現できるという。
「壊れる前に直すことができるだけでなく、故障や事故などの予兆をデータから捉えることが可能になる。これまでの時間基軸で行っていた『TBM(Time Based Maintenance)』から、個々の状態に基づく『CBM(Condition Based Maintenance)』へとメンテナンス業務を変革していく」(中川氏)
現状はまだスモールスタートしたばかりで、とにかくデータをためている段階だという。データ収集も1日1回、車庫に戻ってきた列車からデータを取り出し、それを解析システムに反映させている。将来的にはJR東日本管内の路線をくまなく営業車で検測するとともに、データの反映もリアルタイムで行っていく計画だ。
また、今後はメンテナンスにかかわるコスト削減も踏まえて、最適な投資対効果を図っていきたいとする。日本の人口減少によってこれからさらにJR東日本の利用者数が減っていくことは否めない一方で、メンテナンス経費は毎年ほぼ横ばいが続いているため、経営課題としての認識が強まっている。「現在、メンテナンス経費は営業費の3分の1から4分の1を占めている。これをいかに抑えていくかが課題だ」と中川氏は強調する。
まずは同社の根幹である鉄道事業でIoT活用をスタートしたJR東日本。今後は商業施設での販売促進やマーケティングなどでも活用の幅を広げていくと見られる。「研究開発を進めながら、効果があるものをどんどん現場に導入していく」という中川氏の言葉に従えば、1年後にはさらなる進化を遂げていることになりそうだ。
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