業界首位を守り続けるマツキヨの“強み”とは:高井尚之が探るヒットの裏側(3/3 ページ)
ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、人気企業・人気商品の裏側を解説する連載。今回は市場規模6兆円超のドラッグストア業界で首位を守り続ける「マツモトキヨシ」を読み解く。
素早い販促の方向転換と業界に先駆けた爆買い対応
好業績を支えるのが、同社が培ったビッグデータの活用だ。日本国内に1545店(グループ系)ある店頭で買物をしたときに使う「マツモトキヨシポイントカード会員」(約2270万人)のほか、「マツモトキヨシ公式アプリ」(約360万ダウンロード)、LINEの「マツモトキヨシ公式アカウント」の顧客データが合わせて4000万人以上あり、これを分析して商品開発や品ぞろえ、新たな店舗展開にも反映する。
なかでもLINEは、キャラクターのマツポリちゃんが、肌などのケアをサボる女性を取り締まるという設定がウケて、友達数は1370万人を超えた。LINEは月に2回の頻度で割引クーポンが送られ、店には「このクーポンで」と商品を買う女性客が訪れる。
「もともと当社は若い女性客が多いのが特徴でした。社内でこれからの若い女性の獲得を議論したときに、もう紙のチラシではなく電子配信だと考え、2012年からLINEを活用した販促をスタートさせたのです。若い世代では新聞購読世帯も減り、折り込みチラシを展開しても以前に比べてレスポンス率が低くなりました。しかもチラシ作製に比べて、電子配信のコストは圧倒的に低いというメリットもあります」(高橋氏)
90年代の同社はテレビCMに力を入れていた。当時10代だったタレント・優香の「もうマツキヨなしでは生きていけない」に続き、山口もえの「何でもほしがるマミちゃん」のCMが話題で若い女性を取り込んだ。それが2012年の創業80年を機に、改めてマーケティングカンパニーを掲げた。若者のテレビ離れも進んだ時期の、新戦略の目玉がLINEだったのだ。
もう1つ、同社の業績を押し上げているのは中国人観光客に代表される「爆買い」だが、実は業界に先駆けて2007年から、同社は中国で普及しているクレジットカード「銀聯(ぎんれん)カード」の取り扱いをスタートさせ、爆買い対応を進めていた。
来店すれば、店頭に掲げた「Welcome to Japan! Tax Free Shop」の横断幕が、中国人やタイ人など訪日外国人の購買欲を促す。特に資生堂やコーセーなど日本の化粧品や、フェイスマスクのような商品が人気だという。宝飾品など「爆買い失速」も報道されるが、利用頻度の高い商品を扱う同社は、長年訴求してきた外国人観光客の獲得に自信を示す。
残された課題は「男性客の取り込み」と「雨の日の集客」
そんな同社でも課題は残る。ドラッグストアの利用客は圧倒的に女性だ。前述したビールのように地域最安値のアルコールを買う中高年男性客、マイシャンプーや制汗剤を買う20代や30代の男性客もいるが、多くの男性はドラッグストアに足を運ばない。
そしてもう1つは、客足が落ちる雨の日の集客だ。店頭で買った客にはレシート状の「6月10日から24日まで有効」(例)といった割引クーポンを発行し、リピート客の来店を促す手法を取るが、雨の日の客数減を補うまでにはいかない。
それでもマツキヨは5000億円企業にまで登りつめた。その成功要因には、ヘルス&ビューティーケア商品を都心から離島まで多彩なフォーマットで展開する1545店の実店舗と、ネットを融合したオムニチャネル戦略の相乗効果が大きい。消費者は状況に合わせてネット購入もできれば、勤務先や自宅近くの店舗で、効果・効能の相談をしながら買うこともできる。
コンビニの魅力が「近くて便利」なら、同社は「安くて便利」で支持を広げているのだ。
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