どうすれば救えるのか シリアで人質の日本人を:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
シリアで武装組織に拘束されているとみられるジャーナリスト・安田純平氏の最新映像が公表された。報道によると、武装組織から身代金を請求されているが、日本政府はその要求には応じない方針だという。では、どのようにして安田氏を助け出すのか。
日本政府はどう動くのか
政府として身代金を払わない日本政府は、交渉だけでなく、被害者家族または支援団体などに、“秘密裏”に身代金を集める“手助け”などはできるはずだ。日本政府が支払わないといけない、という条件はないのである。ヌスラ戦線は身代金を受け取ればいいわけで、その出元やプロセスなど気にしないはずだ。そもそも、何か背景にイデオロギーがあって、日本人や欧米人を誘拐しているわけではない。過激派組織にしてみれば、誘拐はビジネスとプロパガンダに過ぎない。
例えば、ヌスラ戦線は当初、解放したスペイン人ジャーナリストについて身代金2500万ドルを要求していた。だが交渉の末に、1人370万ドルに減ったという。スペイン政府は今も支払いを認めていないし、今後もそれを認めることはないだろう。日本も認めなければいい。
また米国が変化した例を見ても分かる通り、身代金を支払わない理論は説得力に欠ける。そこを改めて真剣に考えるべきだろう。また自国民の命を救うために、日本政府はもうちょっとクリエイティブに、また柔軟になってもいいのではないか。人を救うためには、身代金を払ったっていいではないか。
こうしている間にも、身代金の支払い期限が迫る。ヌスラ戦線は支払い期限が過ぎれば、安田氏の身柄をさらに残忍な組織であるISに引き渡すと脅している。ただISとアルカイダ系のヌスラ戦線にそんな協力関係はないとの声もあるし、また過去に斬首にした欧米人や日本人のケースからも分かる通り、ISも結局は身代金が目的だとの見方もある。
こうした現状を踏まえ、日本政府がどう動くのか注視したい。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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