英国のEU離脱を楽観視できるこれだけの理由:新連載・加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(2/4 ページ)
英国がEU(欧州連合)からの離脱を決断したことで、日本企業への悪影響を懸念する声が高まっているが、場合によっては、離脱後もほとんど状況が変わらないという事態もありえるという……。
日本企業への影響は?
では日本企業はどうだろうか? 英国に積極的に進出している日本企業としてよく知られているのは日立製作所である。日立は8200万ポンド(当時のレートで130億円)の資金を投じ、英国のダーラムに初の海外工場を建設している。同社はダーラム工場を拠点に、将来的には欧州全域への展開を狙っていた。その意味では、EUと英国との間に関税が生じた場合には、当初の目算が狂ってしまうかもしれない。日立の東原社長は英国のEU離脱に反対する姿勢を鮮明にしていた。
だが、日立への影響についても、すぐに顕在化するというわけではない。英国でのプロジェクトは、英国運輸省の都市間高速鉄道計画に対応したものであり、そのスキームもかなり特殊だ。日立と現地のゼネコンが特別目的会社を設置し、英国の運行会社に車両をリースする形式になっている。日立は本当は車両を輸出したかったが、雇用を重視する英国政府との交渉の結果、現地に工場を設立した。
つまり、英国政府とタッグを組んだプロジェクトであり、当初から欧州全域でのサプライチェーンが構築されているわけではない。同社への影響が出てくるとしてもかなり先のことであり、その間に、同社が戦略を練り直す時間はたっぷりあるはずだ。
日本全体として見た場合、英国に対しては約7兆円の直接投資残高がある。35兆円を投じている米国や、10兆円を投じている中国やオランダと比較すると少ないが、ドイツやフランスよりは多く、全体としては4番目の金額である。また、帝国データバンクの調べによると、現在、英国に進出している日本企業は1380社あるという。
英国に進出する理由は、EUへの玄関口という意味もあるが、外国からの投資の呼び込みに積極的であり、法人税が安いことも大きく影響している。英国の法人税の実効税率は20%だが、これは米国(41%)、フランス(33%)、ドイツ(30%)と比較するとかなり安い。取りあえず欧州の拠点として税金の安い英国に進出したという企業も多いはずであり、必ずしもEU内でサプライチェーンを構築しているというわけでない。
したがって、各企業に対する影響は、英国内でどのような事業を展開しているのか、また欧州全域にサプライチェーンが構築されているのかによって大きく変わってくる。進出した日本企業全てが大変なことになると考えるのは早計だろう。
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