英国のEU離脱を楽観視できるこれだけの理由:新連載・加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(4/4 ページ)
英国がEU(欧州連合)からの離脱を決断したことで、日本企業への悪影響を懸念する声が高まっているが、場合によっては、離脱後もほとんど状況が変わらないという事態もありえるという……。
EUにとって英国は最大のお客様
ノルウェーはEUそのものに加盟しておらず、当然のことだが独自通貨のクローネを採用している。ではノルウェーはEUとは完全に距離を置いているのかというとそんなことはない。ノルウェーは、EUとの間で、人、モノ、サービス、資本の自由な移動を認めており、限りなくEUメンバーに近い関係を維持している。
しかも、ノルウェーはEUに加盟していないにもかかわらず、EUの負担金まで一部拠出している。人やモノの行き来が自由で予算も拠出し、法制度も共通ということになると、ノルウェーは独自通貨を持っているだけで、事実上、EU加盟国といってもよいだろう。
ノルウェーとEUがこのような付き合い方ができるのであれば、英国とEUが似たような関係を構築することも不可能ではない(ノルウェーには移民の制限はないので、まったく同じ形式は難しいと考えられる)。今回の国民投票を受けて英国はEUに対して離脱を宣言することになるが、実際に離脱するまでには2年間の時間的猶予があり、この間、英国とEUは離脱後の関係について交渉を続けることになる。ノルウェー型に近い協定が成立し、移民問題が解決できた場合には、従来と状況は変わらないかもしれない。
もちろんEUを離脱しながら、より有利な協定を結びたいという英国のわがままに対して、EU側もそう簡単には折れないだろう。だが、EU側には英国に対してあまり強く出られない事情がある。英国はEU各国に約20兆円を輸出しているが、英国はEU各国から30兆円も輸入しており、輸入額が輸出額を大幅に上回っている。
つまりEUにとって英国は最大の「お客様」なのだ。英国の残留派が楽観的であることにはこうした背景もある。
総合的に判断すると、今回の離脱決定によって、直ちに経済的な問題が発生する可能性は低い。対応策を練るまでには十分な時間があるはずだ。事態の推移を見てから行動しても決して遅くはないだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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