「英国のEU離脱が実現しないかもしれない」これだけの理由:世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)
英国の国民投票で、EU離脱派が勝利した。この結果を受け、株価と為替は乱高下したが、英国は本当に離脱するのだろうか。このままでは「離脱しない可能性もあるのでは」といった声も出ている。
EU離脱が実現しない可能性
今後、キャメロンの後任が選ばれれば、英国はリスボン条約の離脱手続きを定めた第50条に則って離脱をEU側に正式に通知することになる。それで初めて、EUと離脱条件についての協議が始まり、その後EU加盟国27カ国すべての合意を得て離脱する。そのプロセスは最短で2年ほどかかると言われるが、前代未聞のことなので、実際にどう進むのか先が見えない部分も多い。
そして今、もしかしたらEU離脱が実現しない可能性として4つのシナリオが考えられる。
1つめは、英国民がEU離脱の意志を示した国民投票の結果を、いつまでもEUに通知しない可能性だ。というのも、国民投票の結果には法的な拘束力がない。英憲法学者たちの見解でも、この投票の結果で実際にEUを離脱しなければならない義務はないという。英国はいつまでも第50条を行使しないかもしれない(現時点ですでに、次期首相候補たちは少なくとも今年中は第50条を行使しないほうがいいと主張している)。
しかもこのEU離脱の議論は英国の内政問題に過ぎず、EU側が英国に離脱の正式な通知を求めることもできない。
キャメロンは国民投票後の議会で、国民投票の結果は「拘束力をもつべき」だと述べたが、その判断は次期政権に任せたいと主張した。ということは、次期政権が国民投票の結果を、「拘束力はない」と考えて行動する可能性がないとは言えない。そもそも法的拘束力はないのだから、それが正しい解釈だと言える。
2つめは、英国議会がEU離脱を阻止する可能性があることだ。離脱通知の前に、EU参加のために制定された1972年の法律を無効にする新たな法律が、議会によって作られる必要があると指摘されている。そしてその新しい法律を、EU残留派が多数を占める議会が否決することもできるのである。現在議員の4分の3が残留派であることを考えれば、EU離脱は難しくなるかもしれない。
また議会は今後、EU離脱に関する法案などをことごとく否決することだってできるし、残留派議員たちが手を組んで、次期政権が第50条を行使する前に不信任を叩きつけることもできなくはない。
ただ専門家に言わせれば、こうした議会の動きは離脱に票を投じた約52%の国民の意思を無視する行為になるため、現実的には与党の「政治的な自殺」を意味する。
とはいえ、離脱派の急先鋒だったファラージが、国民投票に勝つためにEU残留のデメリットについてウソをついていたと後に悪びれることもなく認めているくらいだから、英国ではもはや何があっても不思議ではないのである。
キャメロンは国民投票後の最初の議会で、国民投票の結果は「拘束力をもつべき」だと述べたが、その判断は次期政権に任せたいと主張した。ということは、次期政権が国民投票の結果を、「拘束力はない」と考えて行動する可能性がないとは言えない。そもそも現実に法的拘束力はないのだから、それが正しい解釈だと言える。
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