振り返れば見えてくる 孫正義の買収哲学とは?:加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(4/4 ページ)
ソフトバンクによる英ARMの買収は、世間をあっと驚かせた。孫氏がどのような意図を持ってARMを買収したのかを理解するためには、同社の過去の買収案件を知ることが早道だろう。
「囲碁でいえば飛び石」
ソフトバンクの一連の買収には、事前のシナリオは存在していないように見える。だが、孫氏は、魅力的な案件なら何でも飛びつく経営者なのかというと決してそうではない。注意深く観察すれば、全ての買収案件に共通した哲学というものが見えてくる。
孫氏は常に、次の世代において中核的役割を果たす企業に手を付けておきたいと考えている。具体的なシナジーをどう作り出すのかは、次の時代が到来してから検討すればよい。というよりも、具体的なシナジーなど、そのときにならないと分からない可能性が高い。業界の主役となる企業さえ押さえておけば、それなりの答を得られるはずというのが、孫氏の基本観である。
ARM買収の狙いについて孫氏は「囲碁でいえば飛び石」とも説明している。連続して石を打てば分断されるリスクは小さくなるが、大きな陣地は取れないという意味である。ARMが次世代のネット社会において中心的な役割を果たすことについては、多くの業界関係者が同意している。その点では、先の展開が全く見えなかった従来の投資と比較すると、不確実性はむしろ低い方なのかもしれない。
今回、ソフトバンクはARMを買収するにあたり約40%のプレミア(金額ベースでは約1兆円)を上乗せした。確実性を買うための追加コストが1兆円というわけだが、孫氏の基準からすれば、それは特別高い価格ということにはならないのだろう。
本当の意味でのシナジー効果は、実際にARMがIoT時代の中核企業に成長しなければ見えてこない。この買収の成否について答が出るのは、もうしばらく先ということになりそうだ。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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