「富士そば」人気の秘密を探ってみる:高井尚之が探るヒットの裏側(1/4 ページ)
ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、人気企業・人気商品の裏側を解説する連載。今回は売上高と店舗数を伸ばす、立ち食いそばの「名代 富士そば」を読み解く。
高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
日本実業出版社の編集者、花王の情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の本音の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。
「カフェと日本人」(講談社現代新書)、「セシルマクビー 感性の方程式」(日本実業出版社)、「『解』は己の中にあり」(講談社)、「なぜ『高くても売れる』のか」(文藝春秋)、「日本カフェ興亡記」(日本経済新聞出版社)など著書多数。 E-Mail:takai.n.k2@gmail.com
仕事は忙しくても、なかなか収入が伸びないご時勢だが、社会人は毎日の昼食代にいくら使っているのだろうか。
新生銀行の「2016年サラリーマンのお小遣い調査」によれば、男性会社員は587円、女性会社員は674円だという。同調査では、男性会社員の毎月のお小遣いは過去3番目に低い3万7873円と、限られた額で昼食代を捻出する実情がうかがえる。
そんな庶民の味方の一つが比較的安価な立ち食いそば店だ。特に首都圏では「名代(なだい)富士そば」(以下、富士そば)「ゆで太郎」「小諸そば」といった大手チェーン店が競い合う。
今回はその中で最も歴史の古い、1972年創業の富士そばを取り上げたい。老舗だが守りに入らずに積極的なメニュー開発もあり、近年の業績は右肩上がりだ。2010年末は売上高が約73億4028億円、国内店舗数が90店だったが、2015年末には同89億2016万円、113店舗まで伸びた。さらに海外にも出店し、台湾とフィリピンに9店舗を展開している。
業界に先がけて「安いセットメニュー」「24時間営業」で訴求
「日替わりミニ丼セット」――東京・代々木駅前、JRの改札口を出て30秒ほどの「富士そば代々木店」のドアに貼られていたメニューだ。例えば、月曜日はミニカレー丼など、日替わりのミニ丼とそば・うどんのセットが500円前後で味わうことができる。冒頭に記した競合店よりも少し安い。
単品のそば類は300〜400円台が多く、丼ものも充実。490円(税込)のかつ丼は1枚肉を使っており、価格の割に品質が高い。立ち食いそばといいながら店内はイス席なので、よほどの混雑と時間に追われない限り、座って食事をとることができる。同店を運営するダイタンホールディングスの丹有樹社長は次のように語る。
「ランチ需要はきちんと取れていますが、消費者の財布のヒモは固いままですね。以前にセットメニューを530円にしたところ、客足が鈍った店が多かったので、500円以下のセットメニューも再開発しました。客層によりますが、ワンコインでランチをすませたいニーズは非常に高いです」
富士そばを創業したのは有樹氏の父である道夫氏(現会長)だが、44年前の創業当初から、当時の飲食店では珍しかった「24時間営業」を導入するなど、新たな取り組みをしてきた。
24時間営業は、食事時間が多様化した現代人には便利だ。残業時の夕食や、終業後の“ちょい飲み”で支持される店もある。手頃な価格と味のバランス、店に入って食べ終わるまで平均10分程度ですむスピード感、といった使い勝手のよさが人気のようだ。
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