「富士そば」人気の秘密を探ってみる:高井尚之が探るヒットの裏側(2/4 ページ)
ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、人気企業・人気商品の裏側を解説する連載。今回は売上高と店舗数を伸ばす、立ち食いそばの「名代 富士そば」を読み解く。
分社化した7社が競い合う
富士そばの経営はユニークだ。ダイタンホールディングス傘下に、分社化した7つの企業があり、ダイタンフード、ダイタン企画、ダイタン食品、池袋ダイタンフード、ダイタンイート、ダイタンミール、ダイタンキッチンが富士そば各店の運営を担う。いずれも業務内容は「そば、うどん、カレーライス、天丼、牛丼、かつ丼の販売」だが、トップダウンではなく、できるだけ「現場主導」のスタンスを維持するために分社化しているそうだ。
「出店も分社化した各企業の役割です。当社は専門の店舗開発部署を持っておらず、各企業の常務がこれはという出店物件を探し出し、私や会長が採否を決定します。ちなみに当社の場合、長年の実績で地元不動産店との信頼関係が厚く、空き店舗情報などをいち早く教えてもらえます」(丹有樹氏)
これだけインターネットが発達した現代でも、繁華街の一等地の店舗情報などは、古くからビルオーナーとの付き合いが深い地元不動産店が握っていることが多い。出店するからには長年にわたる家賃支払いなどの問題もある。そうした点を信頼されており、他の飲食店との出店競争に先んじるのだそうだ。
例えば、「駅前繁華街」といっても、人の流れによって出店の手法は異なる。若き日の有樹氏は父の視察に随行して出店手法を学んだという。
「東京・中野北口駅前の中野サンモールには、ダイタンフードが運営する『富士そば中野店』があります。人出は非常に多いのですが、実は通り抜けに利用する人が多い商店街。こうした場所は間口を広くした店でないと集客がむずかしいのです」(同)
長年の経験で出店成功率は高いが、もちろん失敗事例もある。渋谷センター街にあった宇田川店は、店の前を通る客層が若すぎて売り上げが伸びなかった。逆にシニア層が多い浅草仲町店では、「歴史ある下町で商売人も多い土地柄なので老舗個人店も多い。そうした場所でチェーン店が入り込むのはむずかしかった」(同)そうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- なぜ「アイスクリーム」市場は伸び続けているのか
ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、人気企業・人気商品の裏側を解説する連載。今回は3年連続で過去最高を記録したアイスクリーム市場と有力ブランドを読み解く。 - 業界首位を守り続けるマツキヨの“強み”とは
ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、人気企業・人気商品の裏側を解説する連載。今回は市場規模6兆円超のドラッグストア業界で首位を守り続ける「マツモトキヨシ」を読み解く。 - なぜいま松屋フーズは“とんかつ”に力を入れるのか
松屋フーズの低価格とんかつ業態「松のや」の出店が加速している――。牛めし業態「松屋」に続く第2の柱として、同社はいま“とんかつ”に力をいれているようだ。その理由とは? - オリジンでちょい飲み なぜ「オリジン弁当」をやめるのか
長年親しまれてきた「オリジン弁当」は、リブランディングによって、装いも新たに「キッチンオリジン」へ、看板もメニューも再構築されつつある。その理由とは?