廃線危機から再生、「フェニックス田原町ライン」はなぜ成功したか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
福井県のローカル鉄道、福井鉄道とえちぜん鉄道が相互直通運転を開始して3カ月。乗客数が前年同期比2.9倍という好成績が報じられた。「幸福度ランキング1位」の福井県は、鉄道を活用して、もっと幸福な社会を作ろうとしている。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
ローカル鉄道同士の直通運転
2015年3月の「上野東京ライン」の開業から1年後。2016年3月に「フェニックス田原町ライン」が開業した。
「フェニックス?」「田原町?」と思う読者も多いだろう。どこの話かと言うと、福井県である。福井県福井市の南部を運行する「福井鉄道福武線」と、北部を運行する「えちぜん鉄道三国芦原線」が相互乗り入れを開始した。福井鉄道とえちぜん鉄道の路線網を合わせて不死鳥の姿に見立てて「フェニックス田原町ライン」と名付けた。フェニックスの由来は“新生”と“福井”だそうで、ちょっと分かりにくいけれど「ローカル鉄道を不死鳥のごとく蘇らせたい」という願いが伝わってくる。
8月15日付の中国新聞電子版(関連リンク)が、福井県発表として相互乗り入れ開始から3カ月間の利用状況を報じた。利用者数はのべ約3万6100人で、相互直通以前の前年同期比2.9倍となった。大成功である。
直通区間の利用者数を見ると、片道普通乗車券利用者の増加が約3.4倍、両社共通の1日フリーきっぷが約2.6倍、通学定期券が約4.1倍、通勤定期券が約1.4倍、回数券が2.82倍となっている。
ただし、比率では好成績に見えるけれども、実数を見ると開業ブームの感はある。片道乗車券が4170枚の増加、共通1日フリーきっぷが1014枚の増加と大きく、通勤通学定期券と回数券を併せた増加実数は385枚にとどまる。片道乗車券の利用者には、沿線の人々の物珍しさ、お試しの数が多く含まれていそうだし、1日フリーきっぷは相互直通をいち早く体験したい鉄道ファンが多かったと私は思う。
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