ブランドは誰をどう喜ばせるのか:「売れる商品」の原動力(5/5 ページ)
ブランドは誰をどう喜ばせるのでしょうか? ブランドを育てるとき、「情緒的価値」を明確に思い描くことが、自分の幸福にもお客さまの幸福にも不可欠な要素です。
「情緒的価値」は自分も相手も幸せにする
メーカーなどの中には時々、「これを買って、お客さまがどう喜ぶかは、お客さまの自由だ」と考えているところがあります。自分たちは自分たちがいいと思うものを精いっぱい作ればいいことで、お客さまに生まれる情緒的な価値はさまざまあっていいのではないかというわけです。
一見、それもそうかなという意見であり、職人気質といえば職人気質な意見でしょう。しかし、私はやはり“お客さまからどんな喜びの声を聞きたいのか”“お客さまのどんな喜びの顔を見たいのか”ということが、ブランドを育てる自分たちの情熱やエネルギーになると思うのです。だから、誰にどんな喜びを提供したいのかということは、きちんと描かれている必要があるはずなのです。
「ジャパネットたかた」という有名なテレビショッピングの会社があります。独特の高い声で商品説明をする創業者の高田明氏のことは、大抵の人が記憶にあるでしょう。長崎県佐世保のカメラ店を全国規模の通販会社にまで一代で発展させた高田氏ですが、氏がテレビカメラに向かって熱く語っている内容というのは、じつは「情緒的価値」だと思います。
つまり、それぞれの商品の機能を語っているようでいて、本当にそこで伝えようとされているメッセージは、“この商品を買えば、どんな喜びが待っているか”ということなのです。
このデジカメは何万画素ありますとか、この商品はこんなに操作が簡単ですと語りながら、高田氏は「かわいいお孫さんの姿を撮っておける」「見たい番組を見逃さない」などといった、お客さまが買うことで得られる喜びを具体的に伝えているのです。
さらに「情緒的価値」を明確にすることは、自分たち自身の喜びにもつながります。ポジティブ心理学の第一人者ロバート・ビスワス・ディナー博士がNHKの「『幸福学』白熱教室」で語っていた印象深いエピソードがあります。
あるとき、空港と契約駐車場(マイカーを停めておく駐車場)の間を行き来するシャトルバスに乗った博士は、その運転手がとても幸せそうに仕事をしていることに気付きました。博士の目には、来る日も来る日も、同じ景色の短い区間を往復するだけの単調な仕事に思えたにもかかわらずです。
なぜそんなに幸せなのかと問うた博士に、運転手は「自分の仕事は最高の仕事だ」と答え、「旅行業界の一部を担っているというところが気に入っている」と楽しそうに答えます。自分の運転するバスに乗って契約駐車場を利用することで、多くの人々がお金を節約できている。つまり自分は、人々が遠くに住む家族と過ごすために安く旅行をするというシステムの一翼を担っており“家族と家族を結ぶ”仕事をしていると運転手は答えたというのです。
このように、自分の仕事が誰をどのように喜ばせていくのかという「情緒的価値」を明確に思い描くということは、自分の幸福にも、お客さまの幸福にも不可欠な要素なのです。
(つづく)
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