なぜ日本人は“世代論”が大好きなのか:常見陽平の「若き老害」論(3/3 ページ)
常見陽平が職場にはびこる「若き老害」という現象を全6回で読み解くシリーズ。第2回は日本人が大好きな「世代論」「世代闘争」が若き老害を生み出している……という話。
厄介な職場の「世代論」「世代闘争」
メディアにおける「世代論」はまだ、いい。やや性善説的な考えではあるが、その「世代論」がいかに間違っているかについて、評論家や論者が訂正をしてくれるからだ。
しかし、だ。「世代論」または「世代闘争」が厄介なのは、むしろ「職場」においてではないだろうか。職場は論壇ではないし、ましてや社会学を学ぶ場ではない(教育・研究機関など、ごく一部の職場を除く)。およそ科学的ではない言葉が飛び交う。ビジネスパーソンが、この「世代」について感じるのは、メディアで「世代」に関する読み物に接しているときではなく、むしろ、普段の職場においてある。
私も会社員を15年間経験したし、2015年から大学の専任教員として就職したので、職場の論理はよく分かる。それは「何」を言うかよりも「誰」が言うかが大事だという法則である。世代論にはもっともらしい根拠もあり、それが言う人の立場も伴い、妙な説得力を持ってしまう。しかも、ガス抜きとしても酒の肴(さかな)としても十分に機能してしまうのである。問題なのは、職場においては、そこにはリアルに従業員にとっての仕事と生活があることである。利害関係があるということだ。日々、世代間のギャップを感じつつも、働かなくてはならない。生きるためだ。
経営陣や管理職の若返り、若手の抜てきなどは、自分の会社員人生にも関係しており、社内の椅子取りゲームなどを意識してしまう。最近では若手を抜てきする一方で、細く長く働くキャリアも用意されつつはあるが、心理的なプレッシャーにもなる。このように「世代」というのは組織において、気になる論点なのだ。だから「世代闘争」が巻き起こる。
そして「若き老害たち」は、「ウチの◯◯部長は全然仕事をしない。バブル世代だし、しょうがないよな」「若手社員は元気がない。何でもネットで調べて仕事をした気になる。しょうがないな、ゆとり世代だしな」「営業部の田中はいつもFacebookに異業種交流会の様子をアップしている。意識高い系だな、奴は」――と、単なる印象でモノを言い、他の世代を攻撃していく。
「若き老害」は日本人が大好きな「世代語り」「世代闘争」の産物だともいえる。若手の抜てきや、世代が細分化されてきたこと、そして、もともとの日本人の世代論好きの掛け算が、「若き老害」を生み出しているのだ。
常見陽平のプロフィール:
1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『僕たちはガンダムのジムである』『エヴァンゲリオン化する社会』(ともに日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)『普通に働け』(イースト・プレス)など。
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