2018年「大阪メトロ」誕生へ、東京メトロの成功例を実現できるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
2006年から検討されていた大阪市の地下鉄事業民営化について、ようやく実現のめどが立った。大阪市営地下鉄は2003年度に黒字転換し、2010年に累積欠損金を解消した優良事業だ。利益を生む事業なら市営のままでも良さそうだ。大阪市が民営化を目指した理由とは……?
懸念は「子会社のバス事業」
ここまで、大阪市の地下鉄事業民営化は良いことばかりのような気がする。しかし、あえて懸念を指摘すると、大阪市交通局の「バス事業」の処遇が気になる。
実は、好調な地下鉄事業の民営化と合わせて、バス事業の民営化も検討されている。バス事業は公共サービスの理念を優先したため赤字体質であり、1983年から29年連続赤字という状況だ。赤字になってからは大阪市一般会計からの補助を受けており、2008年から2012年までは地下鉄事業から総額249億円もの財政支援を受けていた。
赤字路線の整理や営業所の委託によって、2013年に経常黒字化したとはいえ、既に500億円以上の累積欠損金があった。起死回生を狙って住之江車庫用地に地上19階建ての複合ビル「オスカードリーム」を建設したものの事業は失敗。この物件は大阪市の所有地を30年の期限でみずほ信託銀行に信託しており、総額約261億円の配当金を得られるはずだった。しかし、事業に行き詰まったため、みずほ信託銀行が大阪地方裁判所に約275億円の費用補償請求を申し立てた。大阪市は反訴したが、判決はみずほ信託銀行の請求を認めた。その結果、累積欠損金は約800億円に膨れ上がった。「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」によって、バス事業は経営健全化団体となってしまった。
その経営健全化のプランとして、バス事業の民営化が検討された。具体的には、大阪市交通局が出資し、市営バスの一部区間の運行を受託する大阪シティバスに事業を譲渡するという枠組みだ。つまり、地下鉄は経営が好調なため民営化、バスは経営破綻の脱却のための民営化である。同じ民営化でも意味が違う。
そして、バス事業の民営化にあたり、株主は地下鉄会社になった。具体的には、営業所用地、バスの車両などは地下鉄会社の保有とし、大阪シティバスに賃貸する。事業の改善の状況を見て、大阪シティバスの自己資本に切り替える。また、大阪シティバスが資金調達する場合に地下鉄会社の保証を得る。
つまり、地下鉄会社はバス会社が使う資産について固定資産税を負担しなくてはいけない。賃貸収入はあるかもしれないが、赤字であれば取り立ては難しい。なにしろバス会社は地下鉄会社の子会社である。ここが大阪地下鉄と東京メトロの大きな違いだ。東京メトロは地下鉄事業に専念できる。大阪地下鉄はバス子会社という泣き所がある。実態として、民営化以前の、地下鉄からの財政支援という枠組みは変わらない。このままだと、将来の地下鉄会社の上場にも影響するだろう。
大阪の地下鉄民営化は期待できるところが多い。しかしバス事業はどうなるか。地下鉄との乗り継ぎ割引など相乗効果があればいいが、赤字路線切り捨て、老朽車両による故障頻発など、民間会社の負の面が出ないように、慎重に議論してもらいたい。
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