なぜ学校のプールで「水泳帽子」をかぶるのか 知られざる下町企業のチカラ:水曜インタビュー劇場(水泳帽子公演)(3/7 ページ)
プールの授業で使っていた「水泳帽子」はどこのメーカーでしたか? このように聞かれて、即答できる人はほとんどいないはず。多くの人は考えたこともないだろうが、いまから50年ほど前に水泳帽子が生まれ、市場をつくってきた会社がある。東京の下町にある「フットマーク」という会社だ。
開発当初は全く売れなかった
磯部: 1つは、誰が泳いでいるのか分からないということ。プールの中に入っていると、誰が泳いでいるのか分からない。そこで、帽子に名前を書けるようにして、誰が泳いでいるのか分かるようにしてほしい、という声がありました。
2つめは、衛生上の問題。プールで泳いでいると、どうしても髪の毛が抜けてしまう。たくさんの髪が抜けてしまうので、プールの水が汚くなってしまう。そこで、帽子をかぶることで水質の悪化を抑えてほしい、という声がありました。
土肥: なるほど。現場の先生たちも水泳帽子はノドから手がでるほどほしかったわけですね。
磯部: 早速、商品をつくって、営業に回りました。ジュラルミンケースに水泳帽子をたくさん詰め込んで、夜行列車に乗って鹿児島に向かいました。目的地の鹿児島駅に到着して、駅前にある電話ボックスに駆け込み、職業別電話帳で問屋を探しました。
なぜ問屋かというと、当時はメーカーが直接消費者に売り込んではいけない、という商習慣があったから。水泳帽子で言えば、小売りや学校に足を運んで営業をしたい。でも、できないんですよね。商習慣を無視するわけにはいかないので、問屋を回って「水泳帽子いかがですか?」と声をかけまわったのですが、全く売れないんですよ。
土肥: どういうことですか? 学校の先生はプールの授業のときに困っていたんですよね。帽子をかぶれば「誰が泳いでいるのかが分かる」「水質悪化を防ぐ」ことができるのに。
磯部: 問屋は水泳帽子を見たことも触ったこともないので、学校で使うことがイメージできないんですよね。「なに、これ?」「どうやって使うの?」といった感じ。問屋というのは、基本的に小売りが「こういうモノがほしい」というニーズを受けて、商品を並べるわけです。当時、小売りから「水泳帽子を売ってくれないか」という声がなかったので、問屋は扱うことができなかったんですよ。
こちらがチカラを込めて説明していると、「そんなに熱心に言うんだったら、小売りで説明してきてよ」と言ってくれました。問屋では話にならなかったので、小売りに行って商品の説明をしたのですが、ここでもダメでした。小売りも水泳帽子の存在を知らないので、「なに、これ? どうやって使うの?」といった反応でした。そりゃあ、そうですよね。当時は誰も使っていないので、知っているわけはありません。
問屋に行っても「小売りに説明してくれ」と言われ、小売りに行っても「問屋に説明してくれ」といったことを繰り返していました。
土肥: たらい回しのようですね。
関連記事
- 「YAMAHA」のプールが、学校でどんどん増えていったワケ
「ヤマハ発動機」といえば、多くの人が「バイクやヨットをつくっている会社でしょ」と想像するだろうが、実はプール事業も手掛けているのだ。しかも、学校用のプールはこれまで6000基以上も出荷していて、トップブランドとして君臨。なぜ同社のプールが増えていったのかというと……。 - “手先が伸びて縮むだけ”のロボットが、「在庫ゼロ」になるほど売れている理由
「ロボット」と聞けば、複雑な動きをするモノ――。といったイメージをしている人も多いと思うが、手先が伸縮するだけのロボットが売れている。トヨタ自動車やオムロンといった大企業が導入していて、現在の在庫は「ゼロ」。なぜ多くの企業が、単純な動きをするロボットを求めているのか。 - 眼鏡がいらなくなる? 世界初の「ピンホールコンタクトレンズ」にびっくり
近視や老眼をコンタクトレンズ1枚でカバーできる「ピンホールコンタクトレンズ」をご存じだろうか。現在、臨床研究を進めていて、2017年度中の商品化を目指しているという。どのような原理でできているかというと……。 - 生産中止! 大苦戦していたブラックサンダーが、なぜ“売れ続けて”いるのか
30円のブラックサンダーを食べたことがある人も多いはず。年間1億個以上も売れているヒット商品だが、発売当初は全く売れなかった。一度は生産中止に追い込まれたのに、なぜ“国民の駄菓子”にまで成長することができたのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.