ローカル線足切り指標の「輸送密度」とは何か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
「輸送密度が○○人以下の赤字路線」など、赤字ローカル線廃止問題の報道で「輸送密度」という言葉が登場する。この輸送密度という数値の意味は何か。国鉄時代から取りざたされた輸送密度の数値を知ると、現在の赤字ローカル線廃止問題を理解しやすい。
新たな足切り輸送密度は500人/日となる?
今回、JR北海道は足切りの輸送密度を500人/日未満とした。いったん国が「4000人/日未満は公共交通の義務ではない」と決めた数字よりかなり低い。自力で維持する路線も輸送密度2000人/日で、国鉄の基準の半分だ。JR北海道の公共事業体としての責任を問う声もあるけれども、2000人/日、500人/日という数字は、国鉄時代の存廃論議よりも大きな譲歩と言える。一昔前なら切り捨てられるレベルの路線を、公共交通機関の自覚を持って、何とか維持してくれたわけだ。そして、これはJR北海道だけではない。他のJR旅客会社も同じだ。
9月1日、JR西日本は、存廃問題で揺れている三江線について、正式に廃止を表明した。三江線の輸送密度は50人。JR北海道の廃止基準の1割にすぎない。そして、輸送密度500人/日という数字は、本州、四国、九州にはゴロゴロしている。三江線以外は表面化していないけれど、隠れメタボのような存在だ。
特に上場企業であるJR東日本、JR東海、JR西日本では、株主からいつ廃止を提案されてもおかしくない。現在は鉄道事業に好意的な株主が多いだろう。しかし、出資者本来の役割として、利益を阻害する要因は質すべきだ。公共交通とはいえ、赤字路線を民間企業が担うべきか否か。
その基準として、輸送密度2000人/日以上の路線を維持すれば公共交通事業とみなす、という判断はできる。500人/日未満は廃止せよ、2000人/日未満は自治体の支援を求めよ、JR北海道だってそうじゃないか。それでも国鉄時代よりは誠意があると考えてほしい。そんな風に企業と株主が意見を一致させた場合、北海道以外にも消えていく路線はある。
※ JR九州で輸送密度500人/日未満の路線(2013年度)はなし。(参考:国土交通省 鉄道統計年報平成25年度)
JRグループだけではなく、大手私鉄、バスや他の交通機関にも「500人/日未満」という数字は影響を与える。JR北海道が輸送密度の数字を掲げたことで、これが足切りの新基準と解釈されるだろう。日本の交通問題全体に波紋を広げる数字と言えそうだ。
関連記事
- 東京の「地下鉄一元化」の話はどこへいったのか
東京の地下鉄一元化は、2010年、石原慎太郎都知事時代にプロジェクトチームが発足し、国を交えて東京メトロとの協議も行われた。猪瀬直樹都知事が引き継いだ。しかし、舛添要一都知事時代は進ちょくが報じられず今日に至る。この構想は次の知事に引き継がれるだろうか。 - 「電車には乗りません」と語った小池都知事は満員電車をゼロにできるか
東京都知事選挙で小池百合子氏が圧勝した。小池氏が選挙運動中に発した「満員電車をなくす、具体的には2階建てにするとか」が鉄道ファンから失笑された。JR東日本は215系という総2階建て電車を運行しているけれど、過酷な通勤需要に耐えられる仕様ではない。しかし小池氏の言う2階建てはもっと奇抜な案だ。そして実現性が低く期待できない。 - 羽田空港を便利にする「たった200メートル」の延長線計画
国土交通大臣の諮問機関「交通政策審議会」が、2030年を見据えた東京圏の鉄道計画をまとめた。過去の「運輸政策審議会答申18号」をほぼ踏襲しているとはいえ、新しい計画も盛り込まれた。その中に、思わずニヤリとする項目を見つけた。 - ガンダム、ジェット機、スターウォーズ……南海電鉄「ラピート」の革命
南海電鉄は11月21日から、特急ラピート「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」号を運行している。元になった車両は関空特急ラピート専用車「50000系」だ。鉄道車両としては異形のデザインに驚かれたかたも多いだろう。この電車は、20年前に登場し、鉄道車両のデザインに転機をもたらした革命児だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.