『君の名は。』『聲の形』……岐阜にアニメの「聖地」が続々と生まれている理由:スピン経済の歩き方(2/5 ページ)
ここ数年、上映されているアニメ映画の舞台をみると「岐阜県」が多い。「そんなの偶然でしょ」と思われたかもしれないが、アニメ業界で岐阜の存在感が増しているのは「必然」なのかもしれない。なぜなら……。
「アニメ・マンガ推し」ができた理由
発端は1995年、今回『君の名は。』でも舞台となった飛騨だ。過疎化が急速に進む宮川村(現・飛騨市宮川町)で、観光振興のために、4万冊の蔵書を誇るマンガ図書館などを併設した温泉施設「飛騨マンガ王国」の建国を宣言したのだ。当時の道下則明村長はこのように述べている。
『現在の日本は「漫画時代」といっても過言ではないでしょう。それだけ人気がある漫画と、村の豊かな自然環境を絡めた村おこしができないかと思ったのです。それは目玉になる観光資源がないため、マイナスの要因をすべてプラスに転じる逆転の発想という漫画的な手法ではなかったかと自負しています』(1996年8月14日 読売新聞)
「飛騨マンガ王国」は現在も人気の観光スポットとなっている。このような動きは、県内にも波及。1996年になると、「県マンガ文化研究会」が発足。大垣女子短期大学ではデザイン美術学科にマンガコースを新設。「マンガの神様」として知られる手塚治虫さんのアシスタントを務めた篠田英男さんを招き、次世代のクリエイター育成にも力を入れ始める。
今ならば、「そんなのどこでもやってるよ」という程度の話かもしれないが、1995年といえば6年前に発生した宮崎勤事件の影響がいまだ尾を引いており、アニメ・マンガ愛好者は「オタク」という言葉でひとくくりにされ一部から偏見の目で見られていた冬の時代。「聖地巡礼」なんて概念も当然なく、宮川村は全国の自治体関係者から、「マンガで町おこしなんかできるか」と白眼視されていた。
そんな時代にここまで県をあげて「アニメ・マンガ推し」ができたのは、絶対権力者の強い後ろ盾があった。当時の梶原拓県知事だ。
梶原さんといえば4期16年間、岐阜県政の頂点に君臨し、札束を燃やして捨てるなどして大きな話題となった「岐阜県庁裏金問題」や、ハコモノで財政を悪化させたイメージも強いが、その一方で、東京一極集中を痛烈に批判し、地方の産業文化振興を推し進めたリーダーとしても知られている。
その産業振興のひとつとして梶原さんが力を入れたのが、「アニメ・マンガ」だ。地元紙にその熱い思いを以下のように語っている。
『以前から取り組んできたが、岐阜県をマンガ王国にしようという事業がある。アニメ文化が広げる潜在的な波及効果は将来的に大きく、県では大垣市のソフトピアジャパンに今後、映像産業誘致の研究会などを立ち上げ、本格的に県内の産業振興につなげるつもりだ。韓国などは国家政策としてアニメ産業を興そうと進めているのに、日本はまだマイナーな存在に置かれてしまっている』(2002年12月26日 岐阜新聞)
関連記事
- 「石原さとみの眉が細くなったら日本は危ない」は本当か
女優・石原さとみさんの眉がどんどん細くなっている。彼女のファンからは「そんなのどーでもいいことでしょ」といった声が飛んできそうだが、筆者の窪田さんは「日本経済にとって深刻な事態」という。なぜなら……。 - 「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界
訪日観光客の間で「着物」がブームとなっている。売り上げが低迷している着物業界にとっては千載一遇かもしれないが、浮かれていられない「不都合な真実」があるのではないだろうか。それは……。 - 「日本は世界で人気」なのに、外国人観光客数ランキングが「26位」の理由
日本政府観光局によると、2014年に日本を訪れた外国人観光客は2年連続で過去最高を更新した。テレビを見ると「日本はスゴい」などと報じているが、国別ランキングをみると、日本は「26位」。なぜ外国人たちは日本に訪れないのか。その理由は……。 - 中高生をターゲットにした映画『ずっと前から好きでした。』はなぜヒットしたのか
4月23日から公開している映画『ずっと前から好きでした。〜告白実行委員会〜』は、中高生に人気のクリエイターHoneyWorksの楽曲をアニメ映画にしたもの。“中高生に届ける”ことに特化して考えられた本作をヒットさせるために何を意識したのか。アニプレックスの宣伝プロデューサー相川和也さんに聞いた。 - 「LEDよりも省エネで明るい」という次世代照明がなかなかブレイクしない理由
「CCFL(冷陰極管)」という照明をご存じだろうか。LED照明にも負けない省エネで低価格な製品だが、筆者の窪田氏は爆発的な普及は難しいという。なぜなら……。 - ファミレスでタダでバラまく新聞が、「軽減税率適用」を求める理由
ホテルやファミレスなどで新聞が無料で配られているのにも関わらず、読んだことがない人も多いのでは。大量の新聞紙が「刷られて、運ばれて、廃棄されて」いるわけだが、筆者の窪田氏はあることにスッキリしないという。それは……。 - なぜ日本人はウイスキーを「水割り」で飲むのか?
ドラマ『マッサン』効果でウイスキー市場が盛り上がっている。各社の売り上げが伸びている一方で、気になることも。それは「水割り」。海外の人たちは「ストレート」や「ロック」で飲んでいるのに、なぜ日本人の多くは水割りを好むのか。その理由は……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.