中野電車区事故の教訓 鉄道施設公開イベントで何を学ぶか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
10月14日の「鉄道の日」に前後して、全国の鉄道会社で車両基地公開イベントなどが開催される。鉄道ファンや子どもたちが大好きな電車を間近で見る機会だ。しかし鉄道施設は職場であり、遊園地ではない。楽しいだけではなく、鉄道の危険と安全についても学んでほしい。
危険を学ぶ場として開催してほしい
要望書は「体制に問題がある自己啓発活動によるイベントについては中止」「年末年始輸送を安全輸送に徹し、本来業務に集中するため、現場への指導を強く要請します」と結んでいる。これを受けて今年の中野電車区イベントが実施されるか否かはまだ分かっていない。
たしかに体制に不備のあるイベントは良くない。しかし、鉄道ファンの立場で申し上げると、ここで「やめる」という判断をしてほしくない。大好きな鉄道を間近に見学し、鉄道職員の仕事を理解し、鉄道職員と交流できる機会だからだ。それは小さいお友だちにとっても大きなお友だちにとっても同じだ。「危険な事案が発生したからやめる」ではなく「危険を教訓に対策した上で続ける」。それが人類史上200年にわたって続いている鉄道のあり方であろう。最も安全な方法は何もしないことだけど、何もしなければ進歩はない。
1994年から官民一体となって「鉄道の日イベント」が開催された。さらに2000年ごろから始まった鉄道趣味の盛り上がりもあって、鉄道会社の車両基地公開イベントなどは急増した。市民が鉄道に親しむ良い機会である。
しかし、来場者数という成績を重視するあまり、縁日や夏祭りの延長のような催し物も見受けられる。その結果として、来場者にとって「実物の電車がある遊園地」といったとらえ方が大勢を占めていないだろうか。その警鐘という意味で、幸いにも死傷者が出なかった中野電車区事故は良い教訓になった。
もちろん楽しいイベントで構わない。鉄道に関する知識欲を満たす場でも良い。しかし、車両基地は遊園地でもなければ公園でもない。ちょっとした気の緩みで転んだりケガをする場所である。なぜ職員の皆さんが普段ヘルメットを被っているか。その意味についても理解を深めてもらう場にすべきである。
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