JRの運転士が「水を飲んだら報告」だった理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/3 ページ)
業務上、世間の常識とはちょっと違うルールがある。それは運輸業だけに限らず、さまざまな業界に多少はつきものだ。ただし、それが「今までそうだったから」で続いているとしたら、再検証が必要だ。あなたの会社にも、理由が曖昧なまま続いている「悪しき慣習」があるかもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
6月7日、JR東海が今月から「乗務中の水分補給について報告を不要にした」との報道がなされた(関連リンク)。ネットでは「運転士は自由に水も飲めないのか」という同情の声。また、報告事項については、これまで乗客からの苦情の有無も必要とされていた。これも「乗客の方がクレーマーだ。そんな声を真に受けたJR東海もひどい」という論調も見られた。
この件についてJR東海の広報に確認したところ、報道内容は事実という。また、水を飲むルールそのものを変更したわけではなく、報告を不要としただけ。今までもこれからも、走行中は飲めない。列車の操作機器から手を離してしまうからだ。これは私たちがクルマを運転するときと同じ。そして、今までもこれからも、運転していない間は飲める。そこから先の乗務終了後の処理が変更点だ。業務報告書を提出する際に、チェック項目の下に2行から3行の記述スペースがある。そこに先月までは「○時○分、□□駅で飲水。乗客苦情無し」などと書く義務があった。それが今月から不要になった。
もう1つ質問してみた。
「この決まりはJR東海の発足時からでしょうか」
「いや……いつからという明確な時期は分かっていません」
「国鉄時代からの慣習ではありませんか」
「何とも言えないです」
旧規則が始まった明確な時期が分からない。ということは、給水が原因で大事故が起きたという記録もないわけだ。運転士の給水がきっかけで、乗客から大きなクレームが入り問題になったわけではない、ともいえる。
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