中野電車区事故の教訓 鉄道施設公開イベントで何を学ぶか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
10月14日の「鉄道の日」に前後して、全国の鉄道会社で車両基地公開イベントなどが開催される。鉄道ファンや子どもたちが大好きな電車を間近で見る機会だ。しかし鉄道施設は職場であり、遊園地ではない。楽しいだけではなく、鉄道の危険と安全についても学んでほしい。
防災、避難時に役立つ知識を得る機会に
鉄道施設は本来は危険な場所だ。しかし、機会があれば車両基地公開イベントに出掛けてほしい。そこで実物の車両を見て興奮する気持ちも分かる。私もそうだ。一方で、来場者の皆さんにいくつか試してほしいことがある。
例えば、線路の砂利の上を歩いてみる。とても歩きにくいはずだ。枕木を踏んで歩くほうがラクだと気付く。レールも意外と高さがあって躓(つまづ)きやすいし、枕木とレールの境目も突起がある。もちろん転べば痛い。最近は枕木のような平べったい板ではなく、フローティング・ラダー軌道といって、鉄パイプで軌間を保持する線路もある。このような線路の仕組みや歩き方を経験しておくと、災害時の避難で、やむを得ず線路の上を移動するときの心構えができる。線路上ではベビーカーを使えない。お母さま方、抱っこひもは携帯されていらっしゃるか。
電車はどうだろう。ホームから上に見える車体はのっぺりとして、身体を傷つける要素は少ない。しかし、地上から乗降扉までは意外と高い。それを知っていれば、電車の中から外へ飛び降りて避難しようなどと思わないだろう。電車の車輪や、床下機器は角が立っている。潜り込めば服や肌が引っかかり、ケガをする。そもそも鉄製だから、ぶつかっただけでも痛い。鉄道が本来は危険な道具であり、扱いを間違えると生死にかかわる。
プラットホームでスマホ歩きをする人、黄色い線を越えて三脚を置くような不届き者、警報が鳴っているにもかかわらず踏切を突破する人やドライバーは、鉄道が本来持っている危険を理解できていない。
たしかに鉄道は安全、安心な乗りものだ。しかし誰でも無条件に安全を保証してくれるものではない。鉄道を安心して利用できる。そこには、安全にかかわる多くの職員の努力がある。
最も危険な人は、危険そのものを理解していない人である。普段乗客が触れない部分は、本質的に危険な場所だ。その危険を学ぶことは重要である。そのためにも鉄道施設公開イベントを実施し「鉄道がいかに安全に取り組んでいるか。安全は常に意識して保つものだ」と学ぶ場になってほしい。
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