トヨタの“オカルト”チューニング:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
ビッグマイナーチェンジした86の試乗会でトヨタの広報がこう言うのだ。「アルミテープをボディに貼るだけで空力が改善します」。絶句した。どう聞いてもオカルトである。実際に試したところ……。
86KOUKIは良くなった
さて、最後に86KOUKIの話を書いておこう。正直前期型と比べると、びっくりするほど良くなった。筆者は86については基本的な成り立ちから言って改善の見込みなしと考えていた。なぜならば86のシャシーの大元はインプレッサであり、基礎構造はFFを前提としたシャシーだからだ。AWDが念頭にあっての設計とはいえ、そう簡単にボディが補強できたら苦労はない。素養としてFFのシャシーに後天的に手を加えてリヤの駆動力をきっちり受け止めさせるのは構造的に無理だと考えていたのだ。
写真はAT用。260km/hスケールのメーターは子どもっぽい。実際にユーザーが使用する100km/hまでが見にくい位置にあり、特等席は160km/hから上になる。メーターの目盛りでスポーツ性を訴求する感覚はいささか古くさい
しかし、86KOUKIは、大幅な進化を遂げていた。技術的には、リヤホイールハウス外側に補強材のアウターリーンフォースメントを追加し、リヤピラーにスポット打点を増し打ちしている。信じがたいことに眠たげだったクルマの動きがずいぶんとしっかりした。ボディもアシも締め上げた感じがする。固める締めるという手法は、どちらかと言えばアフターマケットのやり方で、メーカーのブラッシュアップとしては見識が高いとは言えないが、少なくとも眠たいくせにバタバタしているよりはずっと良い。クルマ自体がより真っ直ぐ走るようになったし、微舵角に対する反応も不感帯が適度に減って素直になった。一般道の試乗なので高負荷域でどうなるかは分からないが、少なくとも法定速度内でマニュアルトランスミッションを楽しむものとしては悪くない。
さらにエンジンも結構違う。低回転域からハーフスロットルにしたときのリニアリティが向上した。エンジニアに聞いてみると、パーシャルの領域でのエンジン制御を重視するよう見直したのだと言う。
エンジンにしろステアリングにしろ、86は大入力ばかりを重視するような子どもっぽいところが見受けられたのだが、今回そういうダイナミックレンジの大きさだけでなく、解像度を上げる方向での見直しがいろいろと行われたようである。だいぶ大人になった。トヨタが標榜する「もっといいクルマ」というコンセプトにそれは合致している。前期の86を買おうか迷っている人がいたら引き留めていたと思うが、後期に関しては止め立てする理由はなくなった。
最後に、オカルトな話をして締めたい。今回アルミテープを貼ってテストした前期型の86は、前述の通り眠たいクルマだったが、フル装備でテープを貼ると、86KOUKIにかなり近づいた。同乗していた空力担当エンジニアにそう言うと「おっしゃる通りなんです」と言ってニヤリと笑った。それが本当だと、コストを掛けて改良したリヤ構造の強化は一体何なのだろうか……?
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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