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トヨタと職人 G'sヴォクシーという“例外”池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

恐らく世の中で売られているあらゆるクルマの中で、最も厳しい要求を受けているのが5ナンバーミニバンである。今回はそのミニバンを取り巻く無理難題について伝えたい。

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 「二兎を追う者は一兎をも得ず」あるいは「虻蜂取らず」という言葉がある。

 要するに欲張ると何も達成できないということを示す格言なのだが、設計の世界ではあまり通じない。例えば、クルマの設計者たちは常に二兎や三兎どころではなく100でも200でも追えと言われているのである。一番分かりやすい例で言えば、軽量コンパクトに作りたいスポーツカーなのに「フルセットのゴルフバッグを2人分積めるようにしろ」という類いのヤツだ。

 「そういう馬鹿馬鹿しい多方面要求をするからクルマがダメになるのだ」とメディアは簡単に書くが、そもそも設計とは相反するさまざまな要求をバランス良くまとめて、最良の妥協点を探し出すことだ。そう簡単には割り切れない。ちなみに「バランス良くまとめて」が意味するのは決して「均等に」あるいは「等価に」という意味ではない。優先順位をキチンと付け、製品企画に違わない範囲で折り合いをつけて行くと言う意味で、非常に高度な見識が求められる。先ほどのゴルフバッグで言えば、積載能力とトレードオフで損なわれる別の性能の冷静な比較があった上で、どちらが重要かを論ずるべきであり、簡単に言うほど自明のことではない。

トヨタがスポーツコンバージョン車と呼ぶG'sシリーズの中でも特に評判の良いノアG's
トヨタがスポーツコンバージョン車と呼ぶG'sシリーズの中でも特に評判の良いノアG's

現代のファミリーカー 5ナンバーミニバン

 そして、恐らく世の中で売られているありとあらゆるクルマの中で、最も厳しい多方面要求を受けているのが5ナンバーミニバンである。しかも売れているから手抜きはできない。下に挙げたのは自販連による、2016年6月の車名別新車販売ランキングのベスト30から拾い出した3列シートミニバンで、末尾に「※」が付いているのが5ナンバー枠いっぱいのモデルである。ピックアップしたのが10台ということは、ベスト30のうち3分の1は3列シートミニバンで、その半分が5ナンバーミニバンということになる。

3位 シエンタ 1万954台

8位 ヴォクシー 7278台※

10位 セレナ 6600台※

12位 ステップワゴン 4558台※

16位 ノア 3906台※

17位 エスクァイア 3901台※

19位 ヴェルファイア 3695台

20位 オデッセイ 3474台

23位 アルファード 3146台

27位 フリード 2424台

 この車名別ランキングを見る上での1つの指標は5000台と2000台だ。月によって変動はあるが、概ね5000台売っていれば、ベスト10に入り、2000台売っていればベスト30入りが期待できる。言うまでもないが、ベスト10に入れば成功モデル確定だし、2000台売っていれば少なくとも失敗ではない。まあ先代モデルとの比較もあるので、一概には言えないところもあるのだが。

 ちなみにヴォクシー/ノア/エスクァイアは兄弟車なので台数を合計してみると1万5085台になってランキング2位のアクアを抜く。上にはプリウスがあるのみだ。それだけ売れている大黒柱かつ、日本のファミリーカーの本命なのだ。

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