日本の鉄道史に残る改軌の偉業 北海道もチャンスかもしれない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
鉄道ファンならずとも、JR北海道の行く末を案じる人は多いだろう。安全を錦の御旗とし、資金不足を理由に不採算路線を切り離す。それは企業行動として正しい。そして再生へ向けて動き出そうというときに台風・豪雨被害に遭った。暗い話しか出てこないけれど、今こそ夢のある話をしたい。
石北本線、根室本線の復旧も改軌したら……
無理を承知で書くけれども、いま、台風被害で不通になっている石北本線や根室本線を復旧させる際に、新幹線と同じ1435ミリメートルにできたらどんなにいいだろう。
石北本線を改軌すれば、北海道新幹線の旭川延伸と接続できる。秋田新幹線のような新在直通新幹線方式で、札幌や新函館北斗から網走へ直通できる。いや、新函館北斗〜函館も1435ミリメートルの単線を追加すれば、函館とも結べそうだ。さすがに東京駅まで乗り入れようなどとは言わない。だから改軌工事に当たって電化する必要はない。ディーゼル・ハイブリッドタイプの道内専用車両を投入したい。根室本線、石勝線も同様に非電化で改軌する。函館、札幌から帯広、釧路、根室へミニ新幹線を走らせる。
貨物列車はどうするか。青函トンネルは貨物列車との併用でスピードを制限された。そして、石北本線、根室本線とも、喫緊の課題は旅客列車ではなく貨物輸送だ。石北本線の玉ねぎ列車は10月上旬まで運休の見込み。荷物の玉ねぎも台風被害で水没したけれど、このまま出荷できなければ、被害を免れた玉ねぎも腐ってしまう。根室本線も同様だ。トラック輸送で補っているとはいえ、帯広貨物ターミナルから札幌への輸送力は半減している。運休が長期化するようなら、十勝港からの船便も検討中という。
運ばない荷物は腐る。市場は待ってはくれない。東京・大田市場では玉ねぎの高騰と品不足に困惑しており、輸入を検討する動きもあると報じられた。急いで出荷するためにトラック輸送と船便が定着したら、もう荷主は鉄道貨物には戻ってこないかもしれない。国鉄時代、1975年の8日間に渡るスト権ストで、貨物列車の顧客はトラック輸送に移ってしまった。あの悪夢が蘇りそうだ。
石北本線と根室本線を改軌した場合は、貨物列車も新幹線規格に変更する。懸案の貨物新幹線の誕生だ。こちらは道内にとどめない。東北新幹線に乗り入れて、仙台、大宮付近に積み替えステーションを作り、在来線貨物列車やトラックに積み替える。生鮮食品輸送のスピードアップだ。鮮魚だって輸送可能になる(関連記事)。
このところ寂しい話題が続いたので、今回は夢物語を綴ってみた。しかし、近鉄名古屋線や京成電鉄の改軌、山形・秋田新幹線も、当時は無理な夢物語だったはず。その夢を叶えてくれたあのころにあって、現在にないもの。それは、鉄道を生かすという展望を持ったリーダーである。夢は夢として捨て置いていい。しかしリーダーシップは必要だ。近年の鉄道を思う1人として、実に嘆かわしい。
関連記事
- 列車の車内販売を終わらせてはいけない理由
鳥取県の若桜鉄道で2016年5月から車内販売が始まった。山陰地方で唯一の車内販売だという。全国的に車内販売は縮小傾向にある中で、地方のローカル線やJR東日本の首都圏のグリーン車で車内販売を実施している。車内販売の廃止と開始、その違いは付帯サービスか付加価値か、という考え方の違いでもある。 - 2019年、東海道新幹線に大変革が訪れる
JR東海は10月22日、東海道新幹線のN700A追加投入と700系の2019年引退を発表した。東海道新幹線の電車が最高時速285キロメートルのN700Aに統一されると、東海道新幹線に劇的な変化が起きる。それは「のぞみ」所要時間の短縮だけにはとどまらない。 - 全国新幹線計画は「改軌論」の亡霊
明治5年に開業した日本の鉄道は、軌間(レールの間隔)を1067ミリメートルとした。しかし欧米の標準軌間は1435ミリメートルだ。狭軌の日本の鉄道は、速度も輸送力も欧米に劣った。そして今、日本も標準軌の新幹線で海外へ勝負に出た。ただ、これは諸刃の剣かもしれない。 - 大規模災害を教訓に、貨物鉄道網の再整備を
赤字であっても鉄道が必要という自治体は多い。なぜなら道路だけでは緊急輸送に対応できないからだ。鉄道と道路で輸送路を二重化し、片方が不通になっても移動手段を確保したい。しかし全国の鉄道貨物輸送は短縮されたままになっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.