激変するタクシー業界 「初乗り410円」本当の狙いは?:加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(1/4 ページ)
シェアリング・エコノミーの台頭や、自動運転技術の進化によって激変するタクシー業界――。そのような中、東京のタクシー初乗り運賃を410円にする実証実験が8月から始まった。その狙いは、単に近距離のタクシー需要を喚起するだけではない。
東京のタクシー初乗り運賃を410円にする実証実験が8月から実施されている。国土交通省は実験の結果を参考に、早ければ年内にも運賃の引き下げを認める方針だ。今回の運賃引き下げには、近距離のタクシー需要を喚起する狙いがあると言われているが、一部のタクシー会社はもっと先を見据えた上で今回の値下げを決断している。それはズバリ、タクシーの自動運転化と無料化である。
年々厳しくなっているタクシー市場
タクシーの運賃は規制対象であり、各社が自由に決めることはできない仕組みになっている。事業者から運賃変更の申請があり、その地域の7割を超える事業者から同様の申請があった場合にのみ変更の手続きが行われる。こうした環境では事業者は値下げするメリットが少なく、これまでタクシー料金は一貫して値上げが続いてきた。運賃の引き下げが行われるのは、現在のタクシー業界が成立して以来、初めてのことである。
現在、都内におけるタクシーの初乗り運賃は2キロ730円である。今回の実証実験では1.059キロまで410円という運賃が設定された。ある程度、距離を乗った場合には、運賃はあまり変わらないか、むしろ高くなるが、近距離での利用であれば圧倒的に料金が安くなる。重い荷物を持った老人や、雨が降ったときの近距離利用など見込んでいるほか、外国人観光客の獲得も想定しているという。
近距離利用を促進するということになると、乗客1人当たりの単価は減少し、より多くの乗客を運ぶ必要に迫られる。それでもタクシー業界が値下げに踏み切ったのは、市場環境が年々厳しくなっているからである。
2015年における東京のタクシー、ハイヤーの運送収入は4130億円から3702億円と約10%の減少、輸送人員は3億1232億人から2億6758万人と約14%の減少となっている。タクシーに乗る人の絶対数が減っているため、これを値上げとタクシーの台数削減でカバーしてきたことが分かる。
だが、こうしたやり方はそろそろ限界点に達している。1回当たりの収益を低下させても、乗客を増やして市場全体を底上げしなければならない。
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