日本社会を支える制御技術が集約 日立の大みかはIoT戦略の重要拠点になるか?(2/2 ページ)
今年4月1日、日立製作所は大規模な組織改編を行った。次世代に向けた新たな戦略を遂行するためである。その中心となるビジネス拠点の1つが、茨城県日立市にある大みか事業所だ。現地を取材した。
組織再編でIoTビジネスに本腰
現在、その大みか事業所を管轄するのが、新設されたサービス&プラットフォームビジネスユニット(BU)だ。
日立は今年4月1日付で大規模な組織改編を行った。これまでの製品別カンパニー制を廃止し、サービス主体の事業群とプロダクト主体の事業群で構成される新たな体制に変更した。そのうちサービス主体の事業群は、「電力・エネルギー」「産業・水」「アーバン」「金融・公共・ヘルスケア」という4つのマーケットに、営業やエンジニアリング、コンサルティングなどのフロント機能を強化したフロントBUと、上述したサービス&プラットフォームBUから成る。
さらにサービス&プラットフォームBUは、OT(運用技術)をつかさどる制御プラットフォーム統括本部と、ITを担う情報プラットフォーム統括本部に分けられる。これによって従来は社内の各部門に分散していたAI(人工知能)、アナリティクス、セキュリティ、ロボティクス、制御技術をはじめとした高度なサービスを提供するためのテクノロジーを同BUに統合、集約することが可能となったのだ。
実はこの組織再編は、次世代に向けた日立の大きな戦略転換を意味する。つまりIoTをビジネスの1つの柱とすることを明確に示したのである。日立はこれまでさまざまなシステムを個別に顧客へ提供してきたが、IoTによってあらゆるシステムが接続されるようになると、システムごと、あるいは顧客ごとに制御機能をカスタマイズしていくのでは立ち行かなくなり、製品開発段階からOTとITを融合させることがますます重要になる。そこで日立では、組織体制そのものを変えることで、こうした時代の要請にいち早く応じようという考えなのだ。
それを具現化するデジタルソリューションとして今年5月にIoTプラットフォーム「Lumada」の提供を開始。同ソリューションを活用することで、顧客は生産性や安全性の向上、プロセスの最適化、オペレーションコストの削減などを実現できるようになるという。これを今後の日立の大きな武器にすべく、フロントBUとも密な連携を図り、顧客の開拓に今まさに力を入れているのである。
現に大みか事業所には、連日のように国内外から多くの顧客が視察や相談に訪れているそうだ。「元々、制御システムは顧客とともに作り上げてきた文化がある。このOTの強みをIoTソリューションに生かせるのは日立だからこそ。ここが他社との大きな差別化だ」と事業統括メンバーたちは口をそろえる。
左から日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 技術部の田村光男部長、同統括本部 制御プラットフォーム開発部の松本一人部長、同統括本部 経営戦略本部の北川央樹担当本部長
IoTによるビジネス成長や社会システムの整備は、もはや企業だけでなく、国を挙げて取り組むべき重点課題となっている。海外の競合企業も次々と参入するこの分野で他社を抜きん出てリーダーの地位を築けるか、日立が打ったこの一手に注目したい。
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