「盛り土問題」は人ごとではない(1/2 ページ)
「犯人探し」に明け暮れるマスコミおよび都議会は、論点のズレと優先度の取り違えに気付かずに釈迦(しゃか)の手のひらでしばらく踊り続けるだろうが、企業社会でも同様の迷走が起きることはままある。
日沖博道氏のプロフィール:
パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。
東京都の築地市場移転に伴う豊洲の「盛り土問題」は一向に収拾の様相を見せない。都の内部調査では「犯人探し」には至らなかったばかりか、その後も新たな事実の発見やごまかし行為の指摘が続出しており、予定通りの移転を求めてきた市場関係者からさえも、都に対しての怒りの声が上がっているそうだ。
最初から「犯人探し」に焦点を当てていたマスコミはもちろん、当初は「なぜ今さら蒸し返すのか」と小池知事に反発していた都議会も、一挙に責任者追求モードに切り替わってしまっている。
しかし優先的に明らかにすべき論点は「誰が決めたのか?」ではなく、「コンクリート空間方式と盛り土方式のいずれが汚染土対策として優れているのか?」(従って「当該建物の地下はコンクリート空間のままでいいのか、それとも何らかの追加対策をすべきなのか」)であるはずだ(「豊洲に移るべきか、築地で建て替えすべきか」を蒸し返したい向きもあろうが、取りあえず除外する)。
何と言っても、移転当事者である市場関係者(卸、仲買人たち)が安心して豊洲で商売をするための前提条件と、今後の商売に絡む「豊洲市場ブランド」が揺らいでいるのだ。それに築地市場の跡地再開発とそれに連動する都市改造を東京五輪に間に合わせるためにも、もうほとんど時間的余裕はないとのことだ。「犯人探し」は土壌汚染対策が万全となってからじっくりやればよい話だ。
冷静になれば誰でも分かる話のはずだが、興味本位のマスコミがたき付けることもあり、拳を振り上げた格好になっている都議会とすると、そうなかなか冷静な判断にはならないようだ(小池知事の論点ずらし意図とマスコミ操作の巧さを指摘する声もあるが、ここまで見事な「孫悟空を手のひらで転がす釈迦」振りをみせられると、個人的には政治家としての才能を認めたい)。
こうした論点のズレ、そして優先度の取り違えというのは企業社会でも珍しいものではない。それが意図的に引き起こされる場合もあれば、関係者の大半が真摯に取り組んでいながら生じることもままある。
論点ずらしや優先度の入れ替えが企業でも意図的に引き起こされるというのはあまりにふらちな話だが、例えば組織的な粉飾決算が表面化した際の東芝経営陣を思い起こして欲しい。企業継続性の根幹に関わる「原子力発電事業に本当に将来性があるのか」に焦点が当たらないよう、他の事業体でのリストラ策を矢継ぎ早にマスコミ発表することで世間の目をそらす意図は明白だった。
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