「盛り土問題」は人ごとではない(2/2 ページ)
「犯人探し」に明け暮れるマスコミおよび都議会は、論点のズレと優先度の取り違えに気付かずに釈迦(しゃか)の手のひらでしばらく踊り続けるだろうが、企業社会でも同様の迷走が起きることはままある。
しかしこうした悪質とも言える「意図的な」ものよりもある意味厄介で、一般の企業で日常的に生じやすいのは、関係者の大半が真摯に取り組んでいながら生じる、「意図せざる」論点のズレ、そして優先度の取り違えである。
具体的にはどういうものか。例えば経営陣が海外での投資案件を評価する場面を想定して欲しい。一般の事業系企業なら、自社の中長期ビジョンとの整合性を最初に徹底的に確認した上で、当該案件が持つ事業収益性やリスク、その前提たる仮定といった詳細について検証を行うといった段取りで進むべきである。ところが実際の場面では往々にして、どうしても目に付く収益性やリスクの議論が先行しやすいものだ。
経験豊富な企業経営者ですらそうした傾向が拭えないのだから、一般の企業人が慣れない新規事業の検討や既存事業の見直しのプロセスにおいて、論点のズレおよび優先度の取り違えを「意図せずに」起こしてしまうことはそう不思議ではない。
新規事業開発・推進をお手伝いするコンサルタントとしてわれわれは、それまでの社内だけでの事業構想検討が散々迷走した揚げ句に相談されることも少なくないのだが、よく訊いてみると論点整理をしないで議論を進めてきたことが大きな要因であることが多い。
その時点で気になる論点をモグラたたきのように追いかけて一巡してしまい、結局はどうすれば前に進めるのか分からなくなってしまう。または、最重要な論点を置き去りにしてテクニカルな側面だけを議論し続けていたので全体的検討が大して進んでいないなどである。
われわれコンサルタントはファシリテータ役としてこうした論点整理をプロジェクトの最初および途中で何度も行い、議論が迷走したり優先順位を間違えたりしないようサポートするのが重要な役割の一つである。
そんなわれわれでもてこずることが時にはある。検討を進める中で既に決着した論点に関し、当初の想定だが結局却下された方式を前提に技術者サイドで技術検討と費用見積がされており(純粋な勘違いである)、気付かずにいたらとんでもない混乱に陥ってしまったかもと冷や汗をかいたこともある。
相当昔のひどい話だが、プロジェクトの途中成果が自説に固執する事務局メンバーによって勝手に一部書き換えられていたことすらある(気づいて修正したので事なきを得ているが…。最近の「豊洲盛り土問題」をほうふつさせるエピソードではある)。
「意図的」なものか、そうではなく「うっかり」なのか。いずれにせよ、神ならぬ人が行う所業である。論点のズレ、そして優先度の取り違えというのはどんな組織にも無縁ではない。虚心坦懐(たんかい)に「本来の目的・あるべき姿は何か」を踏まえ、論点整理をしながら議論・検討を進めていただきたいものだ。 (日沖博道)
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