ケアマネジャーを介護事業所から分離させよ(2/3 ページ)
利用者の立場で中立公正であるべきケアマネジャーが介護事業所に雇われている。この構図が必然的に不適切なケアプランと不公正なサービス給付を生み、地方財政を脅かす。ならば分離するしかない
しかしその野放図さは、介護費用を直接支払う自治体財政を蝕み、値上がりを続ける地方税と介護保険代を強制的に支払わされる一般市民の懐を薄く広く痛めているのだ。この「利用者と費用負担者が異なる」構図が公的サービスの厄介なところだ。
国は、ケアマネジャーに対し「利用者の立場で、特定の事業者に不当に偏らず公正中立」(居宅介護支援事業所の運営基準)であることを求めているはずだが、実態は全く異なることを知っている。
だからこそ2015年の介護制度改定により、「特定事業所集中減算」の集中割合が従来の90%から80%へ引き下げされることになったのだ。どういうことかというと、それまでの制度ではケアマネジャーは利用者の90%までを同じ事業所(にして残りの10%を他の事業所のプラン)にすることができたが、制度改定後は同じ事業所の上限は80%までになったということだ。つまり国は、自社サービスを優先してケアプランに盛り込むことは黙認するが、「ほどほどにしとけよ」と言っているのだ。
ではなぜ国はケアマネジャーが介護事業所に所属することを前提にしているのだろうか。いや、むしろ「推奨している」とさえ云ってよいだろう。
実態としては世の大半のケアマネジャーが介護事業所に所属しており、「独立ケアマネ」と呼ばれる存在は全国的に見て非常にまれだ。それはなぜかと云えば、ケアマネ業務だけでは生活できないからだ。ケアプラン策定やそのあとのモニタリングなどには多大な手間がかかるのに、それぞれの報酬は非常に低く設定されているのが実態だ。
なぜ国はこんな制度設計にしたのだろうか。介護制度ができた2000年当時の事情や、担当役人が考えた理由はわれわれ市民には不明だ。
多分(あくまで推測でしかないが)、不足していたケアマネジャーの頭数をそろえるためには、介護事業所に所属していたベテラン介護士たちにケアマネジャーの資格を取らせるよう働きかけるのが一番手っ取り早かったのだろう。そして、どうせ介護事業所に雇われているのだからと、安易に報酬を低く設定したのではないか。
その後5年に一回の制度改定の際に繰り返し、この問題は指摘されているらしい。それでもあまりに制度の根幹に関わるためなのか、今まで手付かずのままなのだ。高齢者がますます増えて全国自治体の介護保険財政が厳しくなる中、ケアマネジャーの報酬を上げる議論がしにくくなってしまっているのかもしれない。
しかしこの制度のゆがみを放置したままでは、冒頭に指摘したような野放図なサービス給付が横行し、介護保険制度を食い物にする連中がますます横行するのだ。ケアマネジャーの報酬という小さな部分をケチることで、かえって国全体の介護保険財政を窮地に追いやろうとしている格好だ。
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