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なぜ鉄道で「不公平政策」が続いたのか?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

赤字の鉄道路線の存続問題を議論するとき「鉄道は他の交通モードに対して不公平な立場にある」という意見がしばしば見受けられる。JR北海道問題もそうだし、かつて国鉄の赤字が問題になったときも「鉄道の不公平」が取りざたされた。なぜ鉄道は不公平か。どうしてそうなったか。

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鉄道だけが不公平だった

 道路、港湾、空港。どれも、そこにかかる保守経費をすべて運行会社に負担させているわけではない。ところが、鉄道については線路施設もすべて鉄道会社が保有するという建前だった。この原則は1872年の鉄道開業から1986年の鉄道事業法施行まで114年も続いた。

神戸高速鉄道は開業当初、線路と駅のみ保有し車両は持たなかった。阪急電鉄、阪神電鉄、山陽電鉄、神戸電鉄の車両が直通運転した。阪急と山陽、阪神と山陽は神戸高速鉄道を介して相互直通運転を実施していた
神戸高速鉄道は開業当初、線路と駅のみ保有し車両は持たなかった。阪急電鉄、阪神電鉄、山陽電鉄、神戸電鉄の車両が直通運転した。阪急と山陽、阪神と山陽は神戸高速鉄道を介して相互直通運転を実施していた
鉄道事業法の施行を受けて、神戸高速鉄道は第三種鉄道事業者となった。阪急電鉄、阪神電鉄、山陽電鉄、神戸電鉄は第二種鉄道事業者となった。見かけ上は阪急電鉄、阪神電鉄、神戸電鉄の路線であり、それぞれ自社の路線図に記載している。上下分離化の好例である
鉄道事業法の施行を受けて、神戸高速鉄道は第三種鉄道事業者となった。阪急電鉄、阪神電鉄、山陽電鉄、神戸電鉄は第二種鉄道事業者となった。見かけ上は阪急電鉄、阪神電鉄、神戸電鉄の路線であり、それぞれ自社の路線図に記載している。上下分離化の好例である

 鉄道関係者から見れば、「これはズルい」となるだろう。飛行機は空に金を払うわけではないし、船も海に金を払わない。バスやトラックも道路の保守費用をすべて負担するわけではない。ちなみに、バスやトラックが専用の道路で走ると、これは法規上「鉄道事業」となる。立山のトロリーバスや名古屋のガイドウェイバスが該当するけれど、かなり希少な事例だ。しかも自社で保守負担するから、気持ちは鉄道関係者と同じ。トロリーバスやガイドウェイバスから見れば「一般道のバスはズルい」と言っていい。

 陸海空の違いはあるにせよ、どれも公共交通機関である。なぜ鉄道だけがかかわる設備のすべてを保有し、負担しなくてはいけないか。特にバスとトラックだ。同じ陸運の仲間ではないか。不公平にもほどがある。やってらんない。いや、実際にやってらんないとばかりに、鉄道を止めてバス鞍替えした地方鉄道会社はいくつもある。

 1986年の鉄道事業法で、鉄道会社がすべてを管理運営するという方式が改められ、新たに「線路保有会社」「運行会社」という考え方が定められた。従来のように上下一体の鉄道会社は「第一種鉄道事業者」である。これに対し、他者のために鉄道施設を建設し譲渡、または鉄道施設を保有し貸し付ける会社は「第三種鉄道事業者」だ。「第二種鉄道事業者」は線路施設を持たない。第一種または第三種鉄道事業者から施設を借り、線路施設使用料を支払って運行する。

 つまり、第二種鉄道事業者が「上」、第一種または第三種鉄道事業者が「下」を担当する。上下分離方式を実現するための法律だ。制定のきっかけは国鉄の分割民営化だ。JR旅客会社が線路を保有し、JR貨物が運行のみを行うために作られた法律である。

 この法律を使って、地方ローカル線の救済が行われた。線路施設を道路と同じように自治体が保有する。保守費用も負担する。だから鉄道会社は列車の運行と営業のみ担当すればいい。鉄道運行会社の役割と負担を、できるだけバス方式に近づけた。現在、赤字に苦しむ地方鉄道のほとんどで、この上下分離方式が実施、または議論されている。JR北海道もその例外ではない。

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